民団新聞 MINDAN
在日本大韓民国民団 民団新聞バックナンバー
永住外国への地方参政権

日本各界に意見を聞く
亜洲奈みづほさん(作家)



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広義の国民概念を
市民的な共存共栄社会へ

◆地方参政権についての基本的な立場は。

 日本人と永住者が、EUの域内で行われているようなコスモポリタニズムに基づいた市民的な共存・共栄ができればいいと思う。

 今まで国民の中に住民が含まれていたが、これからは国民と住民が必ずしもイコールで結べなくなった。参政権問題を契機に、広い意味の国民概念をどうするかという問題になってきている。


◆また選挙権法案が先送りされました…。

 こちらが権利を主張すると相手も同じように危機感を感じ、作用反作用みたいに反発が起きている状況だ。

 重箱の隅をつついているような反対論を聞いていると、等身大の在日韓国人の実像が抜け落ちているように思う。一言で言うと、在日韓国人の「何がそんなに異分子なの」ということだ。どれほど日本社会に近しい存在なのかということが理解されていない。

 同時に、永住者の側もこれまでの差別の歴史から、民族性を誇示せざるをえなかったことは理解するが、強調しすぎると「在日」のことを知らない人にとっては、近づきがたい存在として遠ざけられるという誤解が生じることもあると思う。

 私自身も歴史問題から韓国にアプローチしようとしたが、そのせいで逆に敷居が高く、間口が狭くなったこともある。私の痛い体験からすると、日韓の親近感からか、新世代同士が「私たちは似ているよね」と言っても上の世代にとっては、「同じにされてたまるか」という反発もあるだろうし、一般の日本人が在日韓国人に出会い、「同じ人間じゃないか」と微笑んだ時に、「同じ人間という美名のもとに在日の民族性を抹殺するのか」というふうにとらえられることもある。

 無知な善意の日本人が、在日の運動に賛同しようとしても遠ざけられてしまうことはないだろうか。


◆共生のためのアプローチの方法は。

 民族性も大事だが、両輪の一つとしてもっと共生の事実というものをアピールしていく必要があると感じる。

 例えば、阪神大震災の時の助け合い、共生の事実は、「在日」に対する差別の撤廃を訴えてきた人たちが、ようやく勝ち得た勝利の成果だと思う。共生の成果をアピールすることが、広く日本社会を納得させることになるし、賛同を得るためのポイントになる。新世代にとっては、在日の差別のことも知らないし、そのまま無関心で終わって賛同を得られないのは残念だ。

 ここ数年、日本人の韓国イメージを大々的に変えたものに、サッカーのワールドカップ共催と、最近の新大久保駅の列車事故で亡くなった留学生、李秀賢氏の事件がある。在日韓国人は日韓の橋渡し役を期待されてきたが、これからはニューカマーと日本社会をつなぐ役割も期待されると思う。

 差別されてきたマイナス面から参政権を訴えるだけでなく、プラスイメージからのアプローチも必要。魅力的な在日韓国人になることで、日本人を説得するまでもなく納得させてしまうことが一つの手段として有効だ。


□■プロフィル■□

 亜洲奈みづほ(あすな・みづほ)

 1973年、東京都出身。東京大学経済学部卒業。作家。NGO「日韓市民交流21」代表委員。95年、朝日新聞・東亜日報共催の戦後50周年記念懸賞論文「日韓交流・未来への提言」で最優秀賞を受賞。主な著書に『ソウルはもう、お隣気分』(大和出版)『銀粧刀』(JNPC)『ダブル』(ベネッセコーポレーション)などがある。

(2001.06.13 民団新聞)



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