1通の案内状が届いた。東京・新宿のJR新大久保駅で、転落した男性を助けようとして亡くなった韓国人留学生、李秀賢さんの顕彰碑が、通っていた日本語学校に建立され、除幕式が7月1日に開かれるという。
「あの日からもう半年が過ぎ、いつの間にかうっとうしい梅雨に入ってしまいました」。つづられた文面をじっとみながら、引き出しからそっと原稿を取り出す。事故が起きて3カ月を前に、李さんの母、辛潤賛さんに胸のうちを聞き、私がまとめたものだ。
「辛さんは悲しみに暮れる毎日だが、息子が英雄視されればされるほど自分の息子でなくなるような戸惑いを感じた」
「最初に転落した男性の父親から『悲しみを新たにされるのではと悩みましたが、私の気持ちです』とおわびの手紙と見舞金も届き、そのことも気掛かりになっている」
「そして最近、手紙を書いた。『息子を失った悲しみは同じです。自分を責めずに長生きしてください』と」
辛さんと、地方で独り暮らすその父親との心の交流を伝えることができたら、という気持ちだった。しかし、人々の心をあれほどゆり動かした出来事も、マスメディアにとっては「過去」なのか。その原稿はうやむやのまま今は私の手元にある。
寄せられた見舞金は1億円を超えたという。李さんの両親はその一部をもとに日本語学校で学ぶアジアの留学生のための奨学基金をつくる。企業などに呼びかけ、運営のためのNPO(非営利組織)もできるそうだ。
除幕式には辛さんも出席する。「息子の死を無駄にしたくない」。オモニの言葉を思い出した。
(2001.06.27 民団新聞)
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