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在日へのメッセージ

「被爆者の人権を尊重せよ」
小田川興(朝日新聞編集委員)



 先月1日、大阪地裁で在韓被爆者、郭貴勲さんと支援者たちの歓声が上がった。郭さんが、日本を離れても被爆者援護法による健康管理手当を切らさず支給するよう求めた裁判で、完全勝訴した瞬間だった。

 判決は、被爆者援護法が人道的立法であり、国外居住者を排除することは憲法違反の恐れもあるとし、在外被爆者への手当支給を禁じた74年の厚生省局長通達を認めなかった。外国人が戦後補償に関連して日本政府を相手にした訴訟で初めての鮮やかな勝利だった。

 判決後開かれた集会には日本人、在日、韓国人ら支援者約50人が参加。熱気に包まれ郭さんは「天にも昇る気持ち。弁護士さんと市民団体の方々が食事も忘れて応援してくれた賜物です」と満面の笑みであいさつした。

 朝鮮人徴兵令による第1期の幹部候補生として広島の工兵隊で被爆した郭さんは76歳。67年の韓国原爆被害者協会の結成に参加し会長も務めた。30年ものつきあいだが、こんなにうれしそうな郭さんの顔は初めてだ。

 だが15日、被告の国と大阪府は大阪高裁に控訴した。99年に広島地裁での同様の裁判で国が勝訴したことなどが理由だ。しかし本音は、慰安婦裁判などへの波及を恐れ、誤った通達行政を貫くねらいだ。

 高齢化する韓国人、中国人、そして在外日本人被爆者たちはこの控訴で再び切り捨てられた。北朝鮮の被爆者も。被爆援護法は78年の孫振斗裁判最高裁判決で「国家補償的配慮が根底にある」とした原爆医療法を受け継ぐ。控訴は国のメンツ優先で人権無視の愚行といいたい。

(2001.07.04 民団新聞)



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