民団新聞 MINDAN
在日本大韓民国民団 民団新聞バックナンバー
慎武宏の韓国サッカーレポート
<アジアの虎の鼓動>

教科書問題で影落とすな



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今こそ韓日サッカー交流活性化を
W杯共催への悪影響を払拭しよう

◆屈託のない笑顔

 今からちょうど3年前のことだ。2002年W杯のスタジアム建設状況を取材するために、韓国・光州を訪れたときのこと。そこで知り合った小学校サッカー部の監督が流暢な日本語で話しかけたきた。「今年の夏に日本に行くんですよ。勉強は大変だけど、今から楽しみです」

 聞けば、光州市は宮城県仙台市との交流が盛んでこの年からサッカー交流もスタート。両市のサッカー少年たちが相互訪問し、サッカーの試合だけにかぎらない友好関係を育んでいるという。その少年サッカー交流の引率係として日本に行くことになった彼は、「子供たちはひとつのボールを蹴り合いながらお互いの理解を深め、大人たちはそれを肴に酒を飲み交わす。サッカーが韓日相互理解へのキッカケ作りになってくれる」と言って、屈託のない笑顔を見せた。

 それは韓日サッカー交流の現場でかならず見ることができる笑顔でもあった。アマチュアからプロに至るまで、韓日サッカー交流の現場には「やって良かった」という笑顔と、「また来年も」という握手がある。

 サッカーを通じて、両国の人々が触れ合い、そこで理解と友情を深めるその姿に、私は2002年W杯共同開催の意義と21世紀韓日関係のあり方を実感せずにはいられなかった。

 そんな韓日サッカー交流が今、大きな岐路に立たされている。「教科書問題」が影を落としているのだ。例えば南楊州市の場合。愛知、三重の少年サッカーチームを招く予定であったが、それも中止になってしまった。光州市は中止決定までには及んでいないが、現在、検討中だという。


◆鄭夢準会長の発言

 その背景には、教科書問題に起因する韓国側の日本に対する不信感があるのは言うまでもない。一部の人々の偏った歴史認識のせいで、韓国と日本の地方自治体やサッカー人たちが育んできた交流事業が次々と中止・延期に追い込まれている事実に寂しさを感じずにはいられない。

 と同時に、韓国と日本が共同開催する2002年W杯にも影響を及ぼしそうで心配だ。去る7月13日、W杯韓国組織委員長も兼任する鄭夢準大韓蹴球協会会長が、「日本の歴史歪曲教科書問題は遺憾であり、W杯共同開催に影響を与えざるをえない」と発言。「近くて遠いとされていた両国関係がW杯を通じて近くて本当に近い関係になるとを願っていたが、今回の教科書問題でそうした機会が喪失しようとしている。今の韓日関係は同床異夢」とした。

 韓国政府は、「W杯は韓日間の行事ではなく、国際サッカー連盟(FIFA)が主管する国際行事だけに予定通りに進行する」という立場を明らかにしているが、鄭会長の発言は教科書問題がW杯への障害になる可能性があることを示唆している。


◆3年前の出来事

 韓国と日本の密接な交流から生まれるパートナーシップこそが、2002年W杯を成功的開催に導く決定打となるだけに、鄭会長が現状に懸念の意を表すのも当然だろう。そんな失速する韓日交流を目の当たりにする昨今、思い出すのはタイ・チェンマイで体験した3年前の出来事だ。

 冒頭で紹介した光州訪問から2カ月後、私はタイ・チェンマイで行われたアジアユースを取材したのだが、決勝の晩にとびっきりの韓日サッカー交流に出くわした。数時間前に決勝を戦った韓国と日本の選手たちが、ホテルの一室に集い、友情を育んでいたのである。

 サッカーの話、それぞれの若者文化の話など、彼らはさまざまな話題について語り合った。ときには笑い転げ、じゃれ合いながら、まるで古くからの友人同士のように親密に語り合った。

 もちろん、両国が歩んできた歴史についても語り合った。近現代史を学校で教わらない日本人選手と、それを知りすぎている韓国人選手たちの間に大きなギャップがあったが、お互いを知ろうとする努力は韓日を問わず、双方に見られた。深夜から始まった交流会が夜明けまで続いたのも、そうした相互理解の姿勢の表れだったような気がする。

 歴史認識の相違は、一朝一夕で解決する問題ではない。常に相手と意見を交わす中で、一歩ずつ前進していくものだ。W杯はその環境作りをする上でも絶好の機会になりうる。それだけに今ここで、互いに背を向け合うことだけは絶対避けてほしい。こういう時だからこそ、韓日サッカー交流を活性化させねばならないと思う。

(スポーツライター)

(2001.07.18 民団新聞)



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