今年の春、モスクワを訪れた際、何人かのすばらしい高麗人に会うことができた。ロシア国籍の韓国・朝鮮人である。
モスクワ市内の公立学校の女性の校長、オム・ネリーさんは、九年前から民族教育を進めている。正規の科目に加えて、韓国・朝鮮語や舞踊などの授業を取り入れている。
学校の生徒は、高麗人が全体の半数近くを占める。しかし、あとはみな、学区内に住む一般のロシア人だ。そのほかの少数民族もいる。一年生の子供たちが、高麗人・ロシア人の別なく声をそろえて「アヤオヨ」(あいうえお)を唱える様子はなんともほほえましい。
オムさん自身は4世。自らも独学で韓国・朝鮮語を学んだという。スターリン時代、多くの高麗人が、居住地を追われ、言葉も奪われるという辛酸をなめた。「ロシア語を使わなかったというだけで、警察に連行された人もいたのですよ」。ロシア語だったインタビューの答えが、この時だけ「ウリマル」になった。
民族教育について、オムさんは、「ロシアで、各民族が互いに尊重しあえるようになって欲しいのです」と語った。子供たちが自分の民族のよいと思うところを互いに述べあうという授業を試みているとも話していた。
オムさんの取り組みは、ロシアでも民族問題が難しいことを背景としている。
しかし、一方で、普通のロシア人が、抵抗なく自分の子供をオムさんの学校に通わせているのもまた事実である。
オムさんの話に感銘を受けただけでなく、多民族国家・ロシアの懐の深さを感じないわけにいかなかった。
(2001.08.01 民団新聞)
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