民団新聞 MINDAN
在日本大韓民国民団 民団新聞バックナンバー
在日へのメッセージ

生きている人は謙虚に
小林 一博(東京新聞論説委員)



 久しぶりに首相の靖国神社参拝問題が、大きな関心を呼んだ。

 韓国や中国が反対し、在日韓国人のほとんども反対した。過ぎたことだが、これからも毎年話題になりそうなので、書いておきたい。結論を先に言うと、私は反対だ。

 理由はいくつかある。戦前、靖国神社は、国を滅亡寸前まで追い込んだ軍国主義をあおる役割を果たしたからである。

 敗戦のあと、二度と侵略戦争をしないことを誓い、新憲法を制定した。ところが、今でもあそこへ行くと、時に当時の軍服を着たり、軍旗を持ったりする人たちに会う。軍国主義を懐かしむ場になっているかのようだ。

 また、首相参拝の賛成者は、A級戦犯も含む死者の霊を悼むのは日本の伝統と強調する。

 しかし、これは違う。「敵を祀(まつ)らず味方のみを祀る靖国神道は日本の伝統の宗教から逸脱している」(哲学者、梅原猛氏)のである。

 また、A級戦犯の合祀に周辺国の批判が強い。国内にも当時の戦争指導者に対し「許せない」思いを持った遺族も少なくない。合祀では死んだ人は浮かばれない。まして、海外の犠牲者はよりそうだろう。

 首相が「過ちを繰り返さない」と誓うなら、戦没者追悼式や千鳥ケ淵戦没者墓苑でできる。外交摩擦を起こしてまで、断行することはない。

 靖国神社そのものは信教の自由ゆえ否定はしない。しかし、政治絡みの騒ぎは願い下げにしてもらいたい。生きてる人は死者に対して謙虚であるべきだ。

 父親が合祀されていることになっている遺族の一人としてそう思う。

(2001.09.26 民団新聞)



この号のインデックスページへBackNumberインデックスページへ


民団に対するお問い合わせはこちらへ