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在日へのメッセージ

宇恵 一郎(読売新聞解説部次長)



金ハラボジへの手紙

 謹啓 日々寒さは募ります。金さん、57年間抱え続けた傷にお障りないでしょうか。16日、日本の最高裁が下した判決は、余りに非情なものですが、日本社会に絶望だけは持たないで下さい。というのは無理でしょうね。

 「日本人に何の恨みもない。ただ、一人の日本兵として戦い、傷ついた自分に、なぜ日本政府から一言の感謝の言葉もないのか、それが悲しい」。釜山での取材で悔しさを押しころして話して下さった日から3年。「日本人並みの恩給を」と起こされた2件の訴訟は棄却されました。

 本名の「金成寿」ではなく、「大立俊雄」の名で大日本帝国陸軍に借り出され、ビルマ戦線で、右腕を失った金さんの戦後を思うにつけ胸が塞がるばかりです。国を、名を奪われ、ならばと、日本人として志願して南方に赴いたあなたに、なぜ日本社会は何もしてあげられないのでしょうか。

 判決は言います。「恩給法の国籍条項の削除問題は、政治的な考慮が必要な立法政策上の問題」だと。であれば、立法措置を講じてこなかった国会は何をしてきたのか。

 「戦後補償の問題は、1965年の日韓条約締結に伴う協定で解決済みである」と国はことあるごとに主張します。しかし、韓国の憲法裁判所もまた、「日本政府に求めるべきもの」と金さんの請求を退けています。

 「一体どこへ持っていけばいいのか」。判決後、つぶやいたあなたの一言は胸に重くのしかかります。

 日本国内でも在日韓国・朝鮮人の旧日本軍人・軍属の補償問題は解決を見ていません。記者として何ができるのか、判決は下っても私の問いかけは終わりません。 敬具

(2001.11.21 民団新聞)



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