民団新聞 MINDAN
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21世紀委員会人・文化づくりくらしづくり部会報告



 「人・文化づくり部会」は計5回の会合を持ち、各委員からの発題と、民族学級の見学や交流などを重ねてきた。この部会ではこれまで「人づくり」、つまり「民族教育」の議論に片寄りがちであったが、「文化づくり」の議論にも新たに踏み込んできた。これまでに提起されたいくつかの具体的提案を報告してみたい。


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民族教育再生5カ年計画の提言

民族名・言語回復に焦点日本公教育にも適用求める
朴 一(人・文化づくり部会委員)

 在日韓国人社会では、かねて、若い世代の「民族離れ」が指摘されてきた。

 こうした在日の若い世代の「民族離れ」現象を「日本人との結婚の増加」「日本名着用者の増加」「帰化者の増加」という観点から「日本(社会)への同化」と捉える傾向が見られる。この指摘は実態をどれだけ反映しているのだろうか。

 ある地方自治体で300人以上の在日韓国・朝鮮人を対象に、主として4つの同化指標(日本人との婚姻傾向帰化傾向日本名の使用傾向母国語に対する理解度)に基づいた同化傾向の世代間比較の結果は興味深い。結論から言えば、日本人との婚姻傾向を除けば、若い世代ほど同化傾向は強いというデータは得られなかった。しかし、若い世代の日本人化傾向を否定するものでもなかった。若い世代のなかでも、多数派は依然、日本名を名のっている人々(約80%)、帰化に肯定的な人々(約42%)、母国語ができない人々(約70%)であることを認識する必要がある。

 こうした若い世代の「民族離れ」の実情を「人・文化づくり部会」では深刻に受けとめた。21世紀の在日社会を担う3世・4世の民族意識を高めるために現状と課題について、さまざまな分野から、具体的な取り組みとして提言する。

 「民族教育再生5カ年計画」の概要

 民族教育の柱に、民族名の回復と在日の歴史、そして民族言語の回復に焦点を絞り、運動主体側の意識の覚醒と環境整備に焦点を絞りすすめていく。

(1)日本の公教育における民族名(本名)指導を求めていく。就学通知、卒業証書に本名記入を原則的に求め、民族名使用の雰囲気を築く。さらに「在日コリアン児童指導手引き」を作成する。

(2)『在日韓国人の歴史』教科書の作成と授業の開設を民族学校は勿論、全国の公立中学校に求めていく。

(3)在日同胞資料館(仮称)の開設。

(4)韓国語の英語なみ普及。

 全国の国公立大学で韓国語の講座開設と韓国語専員教員の増員を求める。

 各民族系高校ではセンター入試「韓国語」に対応する。また、交換留学制度や毎夏に在日韓国人高校生を100人程度選抜し、韓国での語学堂サマーセッションに派遣する。

(5)「役に立つ就職情報」など、韓国(朝鮮)籍で就職できる環境の拡大をめざす。

(6)民族学校について

 民族学校を訪問し、学校側と真摯に意見交換を行い、2002年度の中盤までに提言を集約する。


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独自的文化・在日文化とは

「在日」視点に表現「100年史」幅広く広報活動
呉徳洙(人・文化づくり部会委員)

 『独自的文化』、『在日文化』という定義がきわめて曖昧に思える。これまでの「在日」の歴史の中で『在日文化』と個別に総称される「文化」というものが存在したことがあったのだろうか?あったとすれば、それはどういったものを指すのだろうか?

 例えば朝鮮籍・韓国籍を保有している人々の手になる文化活動を指すのか?血の割合?はともかく、近・現代史の中で朝鮮半島にルーツを持つ人達による文化活動を指すのか?国籍・民族は問わず、「在日」を主題にした文化活動ならすべて『在日文化』と言うのか?以上それ等の総称なのか?…。

 その範囲・定義をどこに求めて行くのか。この議論は、今後の「文化づくり部会」を進める上で有益なことと思える。

 【「在日」が活躍している現状から「在日文化」を考える】

 現在、文学・音楽・絵画・映画・演劇・芸能などの世界で、かつては考えられなかったほど多くの「在日」が活躍している。文壇は勿論、映画・演劇界、役者、芸能界・歌謡界、さらに絵画・彫刻・陶芸・工芸など[表現]を仕事としている他のジャンルまで手を広げると、それは数え切れない。1世がいる。2世はもちろん、3世もいる。日本国籍もいれば、日本人もいる。当然ダブルもいる。100年になんなんとする「在日の歴史」を考えれば何の不思議もない。そして彼らに共通して云えることは、表現媒体・表現内容はそれぞれに違っていても、「在日」という同じ立脚点に立って「表現活動」をしているということである。それを『在日文化』と定義するかどうかは別として。

 以上の趣旨を前提に、これまでの「文化づくり部会」で議論された提言を紹介する。

【その1】文化賞の設定(仮称、在日文化賞)

 文学(小説・詩歌・随筆・ノンフィクション)、学術(研究・考察・考証)、美術(絵画・彫刻・モダンアート・工芸・陶芸)、音楽部門(作詞・作曲・器楽演奏・声楽)、演劇(戯曲・演出・演技・舞台美術)、映像(脚本・監督・撮影・俳優・写真)舞踊(バレエ・民族舞踊・パントマイム)、芸能(歌謡・落語・漫才・漫談)などの8部門に分け、コンペティションを行い、審査の結果、受賞者を表象する。

【その2】イベント企画『在日100年フェスティバル』(仮称)

 4年後の2005年は、乙未条約(1905)から数えて100年になる。「在日100年フェスティバル」の開催。

 「在日」の渡日史・形成史・生活史などの写真パネル。在日の作家による絵画や工芸品などの展示。

 映画上映、演劇公演、コンサート等の開催。歌や踊りなどの芸能の披露。

 各界で活躍する「在日」による講演やパネル・ディスカッションの開催。

 戦前・戦後を生きてきた古老(もちろん1世)のお話を聞くコーナーなど。

 イベントの獲得目標は、「在日」が歩んできた歴史を視覚的・客観的に捉え直し、3・4世は勿論、日本社会にも伝えていくことにある。

【その3】映像企画・プロジェクトK『在日100年物語』

 『戦後在日50年史・在日』にならい、記録映画と証言でつづる一大歴史ドキュメンタリーを制作する。

【その4】在日フィルム・センターの創設

 「在日」の家族史・生活史・運動史・事件史などを記録したフィルム(ニュースフィルム・記録映像・劇映画など)・ビデオ・DVD・写真等を一堂に収納・保存し、企画物を開催しながら一般公開していく。

【その5】在日文化史の整理

 ハンドブック『在日文化史年表』の作成や在日文化ポータルサイトの開設をすすめて行く。


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地域社会への参画を新たな同胞共同体も模索
在日同胞の新しいライフスタイルへの提言

21世紀の共生社会に向けて
李清一(くらしづくり部会長)

T、はじめに

 21世紀委員会のくらしづくり部会は、在日同胞社会の人口の動態をはじめ、世代別価値観、また各地において取り組まれている活動体を訪問し、在日同胞社会のライフ・サイクルの在り方を検討するなどしてきた。21世紀における在日同胞の新しいライフスタイルのビジョンを「共生」社会形成への参画に求めるとともに、それを目指すための課題を提言するため取り組んでいるところである。以下はその中間報告である。

U、とりまく状況

1、人口の動態

 韓国・朝鮮籍の登録数(1999年)は63万6548人で、外国人登録者数の全体に占める割合は、約41%である。日本籍取得者数(帰化)の増加は年々顕著になってきている。52年から99年までの総数は23万3920人で、日本国籍取得者は今後も増加の傾向にある。

 婚姻の動き(1999年)では、「韓国・朝鮮」の婚姻総数は9638件である。夫・妻ともに「韓国・朝鮮」は1220件(12・7%)で、夫・妻の一方が「韓国・朝鮮」の婚姻件数は8418件(87・3%)となり、国際結婚が高い比率を占めている。

 また、少子化と高齢化問題では、この40年間の比較において、59年の10代の子どもは29万8096人で、99年には10万9557人となり、約3分の1にまで減少している。一方70歳以上の人口は、59年末4356人であるが、99年には4万9958人となり、約12倍となっている。在日韓国・朝鮮人社会も少子化、高齢化が急激に進んでいることを示している。

2、職業・就職

 昨今の長引く不況は、在日韓国・朝鮮人社会にも隔たりなく及んでいる。民族金融機関の相次ぐ破綻、パチンコ店等遊戯業や焼肉業界の不況など、いわゆる在日の経済の中心でもある業種に大きな不況の波が押し寄せている。70年代の日立就職裁判勝訴以降、就職差別撤廃運動により一般社会にあった諸就職差別が是正され、地方公務員の一部の国籍条項が撤廃されるようになり、在日の自己実現に向けて門戸が開かれつつある。一方、今日の日本社会のバブル経済崩壊後、構造的な不況は在日の経済基盤を直撃している。

V、社会福祉制度の適用状況

 日本における社会保障制度が一定の水準(先進国なみ福祉の達成)に達したのは、73年といわれている。しかし、外国人への適用は、国の自由裁量とされ長期にわたって外国人を排除してきた。在日韓国・朝鮮人に対しては、82年より国民年金法、児童手当法等からの国籍条項の撤廃が実現した。

 これにより社会保障や社会福祉については、現時点では差別的取り扱いの問題の大部分は解消したが、傷病者、戦没者遺族等援護法国民年金末加入問題障害者年金適用からの除外等は実施に際して、経過措置などがとられず、末だ未解決のままである。

X、アイデンティティの多様化

 民団の『在日韓国人意識調査中間報告』によれば「在日韓国人(朝鮮人)としての自己肯定・否定」について、肯定の合計が37・9%で、否定の合計は14・3%となっている。しかし、「考えたこともない」が21・7%、「わからない」が22・6%で、半数近くがこうした自己確認に価値判断を下せない状況である。次に結婚希望対象者の国籍割合に見られる意識について、結婚相談所にたずさわってきた関係者によれば、韓国籍男・女性の場合、結婚対象者として、日本人を70〜80%としているのに対して、朝鮮籍男女の対象は20%と極端に低い。在日同胞社会の南北分断状況が価値観を規定しているケースといえる。

Y、ケーススタディ

1、和泉ムグンファハウス(大阪泉北支部会館)=民団事務所が2階にあり、1階のフロアは同胞のお年寄りを対象にした「街角デイサービス・和泉ムグンファハウス」が運営されている。公的な補助を受け、デイサービスを実施している全国では唯一の民団支部である。

2、川崎市ふれあい館=88年、「日本人と韓国・朝鮮人を主とする在日外国人が、子どもからお年寄りまで、お互いの民族文化を理解し合い、相互のふれあいをすすめる」ことを目的に設立された。全国の自治体で初めての試みである。

3、KCC会館(大阪市生野区)=70年設立。83年に会館が新築され、保育園を併設(定員78名中約85%が在日の子女)。設立目的は、在日韓国・朝鮮人の基本的人権と人間の尊厳を確立し、共生社会の実現をめざしている。

Z、おわりに

―課題と提言

 21世紀における、在日同胞社会の目指すべきビジョンは「多民族・多文化共生社会」の実現である。日本社会が外国人と日本人の「共生」を達成し、新しい時代を迎えるためには、外国人の人権と民族的・文化的独自性、そして地域社会の住民としての地位と権利を包括的に保障することが不可欠である。同時に、在日同胞社会においてもそれに向けたライフ・スタイルが要求されている。

1、新しい在日同胞のライフ・スタイルに向けて

地域行政への参加=地域住民としての自覚を持ち、地域社会の意思決定に積極的に発言し、参加することが求められている

本名への自覚と使用内なる差別(意識)の克服(地域差別感情、性差別)と他のマイノリティ問題への連帯。

2、民団―新しい同胞共同体形成に向けて

生活・福祉・法律相談窓口の設置と活性化民団会館の地域ニーズに応じた活用

福祉・共生基金の設置(人材の養成)

在日同胞の南北和解の推進

3、民団とNPO・NGOの活動体とのネットワークづくり等が期待される。

(2001.11.21 民団新聞)



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