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慎武宏の韓国サッカーレポート
<アジアの虎の鼓動>
ヒディンク・コリアの挑戦

ホスト国の意地、燃える韓国



韓国悲願のベスト16
入りを背負う、
フース・ヒディンク監督

■□
新時代開幕へ、めざすは悲願のベスト16
決勝トーナメント進出・最低でも1勝1敗1分

 世界がサッカーに熱狂するときが来た。ワールドカップという名の大祝祭。21世紀初にしてアジア初となる2002年W杯が韓国と日本にやって来る。

 世界のサッカーファンからその開催を託された韓日両国の使命は大会を成功させること。そのためには万全の準備、抜かりのない大会運営、市民の参与意識などさまざまな要素が挙げられるが、韓日両国の成績も大会成功のカギを握る重要な要素だろう。

 2002年W杯で韓日がめざすのは決勝トーナメント進出だ。その目標設定は過去16回のW杯に由来している。


◆改革意欲の表れ

 1930年にウルグアイでW杯の歴史が始まって以来、ホストカントリーを務めたすべての国々が決勝トーナメント進出を果たした。それどころか、98年フランス大会をはじめ、6カ国が開催国優勝、2カ国が準優勝している。「サッカー不毛の地」と言われた米国でさえ決勝トーナメント進出を果たした。

 こうした前例が、韓国と日本に「最低でも決勝トーナメント進出」という目標を設定せしめているわけだが、とりわけ韓国の思いは切実だ。

 54年スイス大会の初出場以来、86年からは4大会連続、通算5回のW杯出場を誇るが、その成績表には黒星ばかり並ぶ。通算4分け10敗。決勝トーナメント進出どころか1勝すら挙げていない。それだけに自国開催となる2002年W杯では「何としても悲願の1勝とベスト16を!」という思いが強い。

 そして、その強い思いが韓国サッカー界に改革への意欲を促した。

 それまで消極的だった外国人監督招聘を決断。98年大会でオランダをベスト4に導いた世界的名将、フース・ヒディンクに命運を託した。

 昨年1月の香港カールスバーグ杯から本格指導したヒディンク韓国。その歩みはまさに模索の1年だった。


◆柔軟な戦術展開

 序盤はカールスバーグ杯3位、UAE4カ国親善大会準優勝、エジプトLGカップ優勝と着実に結果を残したが、6月のコンフェデ杯ではグループリーグ敗退、8月のチェコ戦では0対5の大敗、9月のナイジェリア2連戦でも大苦戦。ヒディンクは非難の矢面に立たされた。

 結果が伴わないゆえに「本番まで時間がないのだから先発を固定して組織力を高めるべき」と指摘され、若手を積極起用し、対戦相手によって戦術に修正を加える強化方針は「伯楽の気まぐれだ」と槍玉に挙げられた。好調な日本に対する焦りもあった。


◆責任分担鮮明に

 しかし、フランク・シナトラの「マイウェイ」を好んで歌う指揮官は「選手間競争と強豪国との対戦がチーム力を高める」とわが道を貫いた。

 昨年1年間で18回の強化試合に挑み(通算9勝5敗4分け)、50数人の選手を代表チームに招集。そして、指揮官はそのカリスマ性で韓国代表そのものを変えていった。


今年5月31日の開幕を待つ、ソウルW杯スタジアム

◆何が変わったか?

 真先に挙げられるのは、サッカースタイルの変貌だ。これまでの韓国代表は近代サッカーの鉄則とされる「効果的なスペース活用」に対する概念が希薄で、各ポジションの責任分担についてもあいまいだった。そのため、組織的なサッカーを展開できず、いとも簡単に失点を許すことが多々あったのだが、ヒディンク就任後の韓国代表は各ポジションの役割と責任が明確化され、全選手が一定の距離を維持しながら有機的な協力関係を確保。攻守の間隔がコンパクトで組織的なバランスサッカーへと変貌しつつある。

 こうした戦術的変化とともに、ここ数年の課題だった世代交代も同時進行した。

 過去の名声にとらわれないヒディンクの斬新な起用法によって、宋鍾國、李天秀、崔兌旭、李栄杓、金南一、朴智星ら20代前半の若手選手が台頭し、彼らに刺激され、崔龍洙、柳想鐵、黄善洪らベテランも発奮。激しいレギュラー争いがチーム力向上への相乗効果を生んだ。

 特筆すべきは、選手たちの精神力と経験値が飛躍的に向上したことだ。「たとえ負けたとしても強豪国との対戦は経験になり、自信になった」とは柳想鐵の言葉だが、韓国代表は多くの強化試合を通じて強いメンタル・タフネスを身につけた。

 それは常に闘争心を求める指揮官の影響が大きい。

 守備の組織力強化や個々の判断スピードの向上など課題も多いが、「アジアの虎」は心身ともに世界仕様へとモデルチェンジしつつある。


◆強豪ぞろいのグループD

 ヒディンク・コリアが2002年W杯で戦うのが、ポーランド、米国、ポルトガルだ。韓国が属するグループDは強豪揃いだ。

 ポーランドは激しい欧州予選をいの一番で通過してきた古豪であり、米国はプロサッカーリーグMLSの活況で近年は着実に力をつけてきている。ルイス・フィーゴ、ルイ・コスタら世界的スターを数多く揃えるポルトガルは優勝候補の一角だ。

 韓国がこの強豪に競り勝ち、決勝トーナトメント進出を果たすためには最低でも1勝1敗1分けの勝ち点4が条件。

 そもそもW杯は、し烈を極めた各大陸予選を突破した国々が一堂に集う大会だ。組みやすい相手などいるよしもない。むしろ強敵揃いだけに張り合いも出てくるものだ。何よりもヒディンクがやる気を見せているところが頼もしい。地元マスコミが騒然とした抽選会直後、指揮官はキッパリこう言った。「I m’  confident」

 世界の修羅場と勝利の味を知る指揮官の頭の中には、すでに「W杯ベスト16へのXファイル」がインプットされているのだ。

 ヒディンクが描く「W杯ベスト16へのXファイル」。その秘策は定かでないが、これまでがそうだったように超実戦主義の強化方針が貫かれていくだろう。


◆実戦主義を貫く

 韓国代表は1月18日から米国で行われるゴールド杯(北中米カリブ海選手権)に出場し、本大会でも対決する米国代表と前哨戦を行う。

 2月には欧州または南米に遠征。3月はスペインを前線基地に約3週間の合宿、4月からは国内で集中強化に突入する予定だ。

 この時期、国内のKリーグはカップ戦が実施されるが、大韓蹴球協会幹部によると、国内選手は代表チームに専念させる方針で、3月から本番直前の5月まで最大10回の強化試合を組む予定だ。

 W杯開幕直前には世界王者フランスとの最終テストもある。まさに協会、クラブ、監督、選手が一致団結して代表チームの強化に乗り出す。そこに韓国の強みと意気込みを感じる。

 果たして、ヒディンク・コリアのW杯ベスト16進出はなるか。その答えは神のみぞが知るところだが、これだけは間違いない。W杯の舞台で韓国が熱く激しく躍動したとき、21世紀アジアサッカーの時代が幕を開ける。

 その新時代を切り開こうと、ヒディンク・コリアは燃えている。韓国が燃えているのだ。我々在日も燃えないわけにはいかないだろう。

慎武宏
(スポーツライター)

(2002.01.01 民団新聞)



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