民団新聞 MINDAN
在日本大韓民国民団 民団新聞バックナンバー

我的父親母親



 父親の訃報を受けた彼が故郷の小さな村に帰ると、母が小学校の前に座り込んだまま動かないと聞かされる。町の病院から家まで、遺体を担いで帰ると言って頑ななのだという。

 人手が何十人も必要なのに、村は老人と子供だけだから無理だという村長の意を受け、自動車に乗せようと説得するが、「昔はみんなそうした。角ごとに立ち止まって声をかける。死者が故郷への道を忘れないように」と譲らない。困り果てた彼の目にふと、古ぼけた写真が止まり、子供の頃、時々聞かされた両親の出会いを思い起こす。

 恋愛が珍しかった当時、中国のその村に教師の父が都会から赴任した。働く男達に女達が昼食を作るのが習わしで、母は父に食べて貰いたい一心で食器の色や置き場所を工夫し、思いは伝わり夫婦となった。村で知らない者のいない話だ。

 40年経っても変わらない母の気持ちと、生涯を学校に捧げた父の為に彼は、驚く村長に大金を預けると、大勢の人を雇って担ぐ手筈を整えてくれと頼み込む。ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した、「我的父親母親」のあらすじだ。

 100人もの人々が奪い合うようにして棺を担ぐ帰途、村長が金を全部返す。どこから聞きつけたのか人々は皆、父の教え子であり、誰も受け取ろうとしないのだと。

 校舎から本の朗読が聞こえて来るラストシーンを観ながら、亡くなった一世の父を思い出した。(S)

(2002.04.17 民団新聞)



この号のインデックスページへBackNumberインデックスページへ


民団に対するお問い合わせはこちらへ