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アボジと息子のW杯



 サッカーのW杯で、韓国チームの初戦が行われる前日の夜、釜山のリゾート地、海雲台にいた。

 そこは20年以上も前にアボジと訪れたことがあった。故郷からもさほど遠くなく、慶尚道なまりが通用する気兼ねのない土地だった。波の音と心地よい潮風を受けながら、親子水入らずでとりたての刺身に感激した思い出がある。

 80歳手前のアボジと再び祖国を旅することがあるのかどうか。老後の世話を先送りしている長男のほろ苦さも胸に迫ってくる。そんな感傷と、W杯をこの目で観戦できる期待とが一杯になって、アボジの声が無性に聞きたくなった。携帯で国際電話ができる便利な時代。弾むような声が耳元に響く。「なんで韓国人に生んだんだ」と暴言を吐いた息子の方が、祖国を訪れるようになった現実に、目を細めているのがわかる。

 「太極戦士」たちは対ポーランド戦を皮切りに、快進撃を始めた。そのたびにアボジに電話をかけた。亡国の民の悲哀を味わったアボジと植民者の土地で生まれた息子が一体感に包まれ、われ知らず高揚していた。仁川ではついに大型の太極旗を買い、わが身を包んで愛国歌を歌った。大観衆の声が会場を揺らした。

 「韓国人に生んでくれて誇らしく思うよ」。それほど韓国は、選手も国をあげての盛り上がりも素敵だった。この言葉をアボジに直接会って伝えたいと思っている。(C)

(2002.07.31 民団新聞)



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