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共催が残した成果と問題点



 長い友好と一時期の不幸な歴史を持つ韓日関係の中で、W杯は両国共催という共同作業となった。6年間の準備と1カ月の大会期間を経て、韓日関係はどうだったのか、そして今後は…。両国の関係者に聞いた。

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宇恵一郎(読売新聞解説部次長)

相互理解確かに深化
「教科書」「靖国」先送りのまま

 「マタ、キテクダサイ。…これでいいのかしら」。雨後のたけのこのように、最近ソウル市内に立ち並ぶ「エスプレッソ・カフェ・ショップ」の一つでアガシが笑顔で日本語のあいさつを投げてきた。

 2002FIFAワールドカップ(W杯)取材のため大会期間前後の40日間、韓国に滞在した。「世界のお客を心からもてなそう」とのスローガンがあふれる街で、日本人も「最も近い隣の国の人」と歓迎された。

 95年から3年間のソウル特派員生活では、「竹島(独島)」問題が噴き出し、日本の閣僚の歴史問題での妄言が飛び出すたびに、飲み屋で議論を吹っかけられた。タクシー運転手は日本人と分かると無言で指でドアを指して「降りろ」とすごんだ。そんな経験からすると、隔世の感がする。

 日本人の友人は、新宿大久保に赤いTシャツで繰り出して、在日の仲間と一緒に「テーハンミングッ」と声をからした。

 W杯共同開催が決定して以来の6年間で日韓双方が互いに理解を深めてきた成果であるのは間違いない。相互の訪問者が年間300万人を越え、お互いを知ることが、無用の摩擦を軽減することは当然だろう。

 日本のベスト16、韓国のベスト4。競技での健闘だけでなく、秩序に裏付けられた熱狂の大会運営は史上最高と評価された。

 「おい、ちょっとすごいぞ」。韓国がイタリアを破ってベスト8入りした夜、東京の朝鮮総連系のジャーナリストから携帯が鳴った。テレビ中継を見ながら涙が出たという。倒れても倒れてもゴール前でタックルに入る韓国選手。安貞桓の劇的なヘディングシュート。感動しないわけがない。

 当時、平壌にいた知人は、「イタリア戦の録画中継が流れた夜は街は空っぽ。市民は家でテレビにかじりついた」という。和解と対立の間で揺れる南北関係にも、韓国の健闘は好影響を与えたのだ。「やはり、ウリは一つ」だと。政治的な意味ではなく。

 とはいえ、宴が終わって、日本の報道ぶりから「韓国」「日韓」がすっかり影を潜めてしまった。朝のバラエティショーは、またぞろタレントのスキャンダルで埋まる。韓国でも「この国民の一体感で経済問題の克服を」と、内向きのキャンペーン一色だ。

 日韓の相互理解は確かに深まった。しかし、これは両国関係を考える入り口にすぎない。靖国参拝問題、歴史教科書問題、そして定住在日外国人の地方参政権問題など両国に横たわる懸案は、「W杯共催成功のために」の殺し文句で先送りされたままなのだ。

 読売新聞社では、この秋、W杯を契機に芽生えた日韓関係への市民の視線を確固としたものにするため、「朝鮮通信使」をテーマに、「ジャパン・コリア市民交流フェスティバル2002」を千葉幕張での11月16、17日の中央セレモニーを中心に、対馬から下関、岡山、近江八幡、静岡など全国各地で開く。日本人だけでなく、在日の皆さんにも大きな関心を持ってもらいたいと思う。


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李衍澤(韓国組織委員会共同委員長)

真のパートナー確信
今後のモデルとなる「共催」

 韓国組織委員会で鄭夢準委員長と共同委員長を務めたが、史上初の共催W杯は大過なく大成功に終わった。昨年9月の対米同時多発テロ以降、世界が緊張する中で開催されたW杯だったが、今回の大会は世界を一つにする祝祭になった。W杯が単なるスポーツ大会でなく、人々に平和の尊さをも再確認させる機会になった。

 日本との共催について、海外で多少憂慮する声もあったが、過去のどの大会に比べても組織面、安全面で効率よく運営ができた。それは両国の協力が完璧になされたからで、この点を誇らしく思う。

 歴史的に見て、韓日両国が国際舞台で共同開催した最初の事業が成功した。両国の代表チームが競技力を向上させ、16強に進出したが、その結果、相互間の信頼関係が形成された。両国民が力を合わせ、共催を成功させたということは、両国民に自尊心を植え付けるのに充分だった。

 競技過程では、韓国が日本を、日本が韓国を応援した。訪韓できなかった人たちは、東京・新大久保をはじめ日本全国で韓国人と日本人が、快進撃を続けた韓国代表チームを、心を一つにして応援した。市民レベルでの韓日交流が花開いたと言える。教科書問題や小泉首相の靖国神社参拝問題などでぎくしゃくしてきた「心の壁」を取り壊し、真の友好関係を構築したと言える。

 両国が「最も近くて近い国」になり、今後も真のパートナーになることを確信することになったのである。

 また、韓日の狭間で生きる在日同胞にとっては、韓国チームの大躍進で民族の誇りを呼び起こす大きな契機になった。朝鮮総連同胞を含め、1500人規模の応援団が各競技場で熱烈な応援を繰り返した姿は、本国の国民の脳裏にいつまでも残るだろう。本国と在日同胞社会の絆を深くするのに寄与したことに、心から感謝したい。このような成功の結果が、在日同胞をはじめ海外に住む韓民族すべてのプライドになった。

 今回の共催は、韓日両国が互いの良い面を合わせて成功に導いたことに尽きるが、アジア人の立場から言うと、初のアジア開催で、開催国の日本は16強、韓国は4強という好成績を残した。アジア人の自尊心を大いに高めることができたのも評価すべき点だ。

 W杯全体から見ると、これまでW杯開催を考えもしなかった中小国家でも共同で力を合わせれば、開催することができるということを示した。これはW杯の歴史に新風を吹き込み新しいモデルを築くことになったと言える。

(2002.08.15 民団新聞)



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