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文化交流が信頼築く

ジェームス三木さん



朝鮮通信使の役割に照明
ミュージカル「つばめ」の脚本・演出

 朝鮮通信使を題材にしたミュージカル「つばめ(チェビ)」の脚本と演出を手がけたのがジェームス三木さん。25日から、秋田県田沢湖町の劇団「わらび座」によって上演される。韓半島と日本の間で200年におよんだ善隣友好の外交を行った朝鮮通信使に思いをはせながら、文化交流の重要性を説く。

 劇団「わらび座」と仕事をするのは、99年から全国公演を行った司馬遼太郎原作「菜の花の沖」の脚本・演出を手がけて以来になる。

 以前から、韓半島と日本の間に友好関係の交わりのあった朝鮮通信使に興味があったという。その中でも特に感動したのは、豊臣秀吉の「武」に対して、朝鮮通信使が「文」をもって報いたことだ。この時、文化使節団として日本と交流を深めた朝鮮通信使の素晴らしさを改めて実感。題材にしたいと思っていた。

 「つばめ」は朝鮮通信使として渡日した李慶植が、10年前に水死したはずの妻、春燕に再会するが、すでにお燕という名で彦根藩士の妻として暮らしていた。2つの国と2人の愛の間で悩むお燕の姿を描いた作品。

 悲劇的な女性を通じて、個人と国家の関係、そして戦争や侵略によって悲劇が生まれるという意味も込められている。豊臣秀吉の壬辰・丁酉倭乱(文禄・慶長の役)の際、7万5000人といわれる朝鮮人が連行されたことを日本人はあまり知らない。「第2次大戦中の強制連行もそうだが、もう一度歴史を振り返って考えるべきではないか」と話す。

◇  ◆  ◇

 「国家」と「個人」の関係に特別の思い入れがある。旧満州奉天(中国東北地区・瀋陽)生まれ。日本の敗戦後、引き揚げによって日本に戻ったのは10歳の時だ。当時、中国では混乱の中で多くの日本人が取り残された。国家はいざという時に、国民を庇護してくれないことが分かった。

「国とは何か、というのがいつも頭にあった」。個人と国家の間にある食い違いや距離感。戦争に負けたことでいろいろなことが見えたいう。

 「菜の花…」は、1人の商人がロシアと日本の国家外交を行ってしまうという内容。「個人と個人は仲がいいのに、国と国はメンツが先にたって本音で外交ができない。だからこそ民間外交が大事になってきている」と強調する。

◇  ◆  ◇

 文化交流の重要性を説く。文化交流から対立は生まれないというのが持論だ。歴史を振り返って朝鮮通信使とは何だったのかと、いつもそこへ行き着いた。「日本と韓国には200年におよんだ交流の歴史的事実がある。やればできるということです。そのためには理解し、認めあうことが大事」。将来、韓国と日本が、当時の朝鮮通信使が築き上げた信頼関係によって結ばれることを切望する。

 「文化にたずさわる人たちが、理解を深めるという意味では貴重な立場にいる。だからこそ、われわれが文化交流の中で史実を伝えながら、お互いの理解を深めていくことが、時間はかかっても大事」なのだと。

 文化的側面から日韓の架け橋役を果たしたい。「つばめ」にはそんな思いが込められている。初公演は秋田県の田沢湖町の「わらび劇場」で行われ、来年2月から全国各地で公演する。

(2002.08.21 民団新聞)



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