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在日韓国人初の東大教授

-姜尚中さん-



偏った韓国像にメス韓日相互理解へ言論の役割に光

 在日同胞二世の姜尚中さん(47)は、今年四月一日付で在日韓国人として初めて東京大学教授に就任した。研究テーマは社会情報学という新しい分野。明治以降に日本の新聞メディアに現れた偏った韓国像にメスを入れることをはじめ、植民地時代の御用メディアや現在の韓日両国の特派員のあり方など、今後の韓日関係の相互理解を果たす上での言論の役割について光を当てる。また、言葉にならなかった在日同胞一世の思いのたけを、多くの人に伝えることも自身に与えられた役割だと語る。






 教授就任を自身は淡々と受けとめたが、周囲の熱い反応を見て、東大のネームバリューを実感した。その温度差に当惑しつつも、祝いたいと言ってきた友人たちのことを嬉しそうに話す。

 東大には日本社会の変化のニーズに応えなければという切迫した要請があり、私立大学よりも門戸が開かれているという。国際基督教大学準教授の職責にあった姜さんや外側からいろんな人を入れているのもそのためだ。

 籍を置く社会情報研究所の前身は、日本のジャーナリズムの中核的な役割を果たしてきた「新聞研究所」。これまでの研究を核にして、今後はマルチメディアをはじめ、法律や政治、社会、文化、社会心理などにすそ野を広げ、多様な領域を学際的に研究していく。まだ統一的なイメージが作られていない社会情報学へのアプローチだ。

 姜教授の研究テーマは三つ。一つは、明治時代の新聞メディアに現れた韓国像を系統的に追うことである。「なぜ韓国に対して偏ったイメージができたのか、焦点を当てたい」。

 二番目には、一九三〇年代の戦時期のメディアを取り上げる。国が植民地にされた時代に、日本人になった同胞が発行していた「御用メディア」の資料を分析しながら、「日本人として生きざるをえなかったその当時の韓国人の歴史的なドキュメントを通じて、民族や国民性の問題などを考える必要がある」。

 三番目は、韓日間の認識差を作り出すメディアについてスポットを当てる。両国に派遣されている特派員の生態に踏み込みながら、彼らの思考が韓国や日本のイメージにどういう影響を与えているのか、ナショナリズムの再生産に加わるメディアを歴史社会学的に分析する。

 「歴史と今、そして今後を見つめたい。そのベースにあるのは、韓日関係の相互理解を深めること。漁業交渉が領土問題に発展し、ひいては両国の国益がぶつかりあうような関係であってはならない」。

 個別の問題を全体に転嫁させず、政経分離の立場から政治と文化や社会の問題を区分けすべきだと説く。ソウル大学の言論研究所とも提携し、両研究所が媒体となって韓日メディア間の交流を深めたいと考えている。






韓日相互理解へ努力したいと語る姜尚中教授

 一九五〇年に熊本市で生まれた。小学五年生の時にオール五の通知表を持って家に帰ったら、母に怒られた。何でも一番がいいと思っていたからだ、と苦笑する。両親は勉強ができることよりも息子が将来プロ野球で大成することを夢見ていた。

 周囲に同胞は少なかったが、政治論議の好きな伯父はやがて北韓に戻っていく同胞と「北は間違っている」と談論風発の論議を繰り返していた。その風景が布石となったのか、早稲田大学政経学部に進学。学者になった今の自分があるのかもしれないと言う。

 昨年、肺を患い二カ月間も病床にあった時に、夢に現れたのが一世だった。「ふるさととは一世の記憶。そこにアイデンティティの根幹がある」と存在の大きさに思いを馳せる。言いたいことがあっても言葉を知らずに発言できなかった一世の思いのたけを多くの人に伝えることが自分の役割ではないか。

 そのためなら、「人寄せパンダになってもいい」と風貌に似つかわしくないことをさらりと言ってのけた。(98.5.15)



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