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人権尊重の国際潮流を直視せよ


 外国人登録法(外登法)の指紋押捺制度をめぐる裁判が七月十七日、最高裁に舞台を移して始まる。

 去る八五年に京都市で指紋押捺を拒否し、京都府警に逮捕された在日同胞二世の尹昌烈さんが、「逮捕は違法」として訴えていた裁判で、すでに大阪高裁が九四年に逆転勝訴判決を下しているにもかかわらず、京都府や国が上告したためだ。

 高裁の判決文では、「逃亡や証拠隠滅の恐れはなく、逮捕の必要はなかった」として、地裁の裁判官が安易に逮捕状を発布した裁量権の逸脱に警鐘を鳴らした。また、日本人と変わらないほど身分関係が明確な定住外国人に対する指紋押捺の強制は、「憲法と国際人権規約に違反する疑いがある」とも指摘している。


外登法から地方参政権へ

 在日同胞の定住性を受けとめ、制度自体の問題性に初めて踏み込んだ高裁の見識は、その後の最高裁の地方参政権判決にも受け継がれていった。

 九五年二月、「外国人のうちでも永住者等への選挙権付与は、憲法上禁止されているものではない」との文言は、民団の主導する地方参政権運動の追い風となり、日本各地に浸透したのは周知の事実である。

 こうして在日同胞の人権をかけた八〇年代の外登法改正運動は、共生をめざす九〇年代の国籍条項撤廃運動、地方参政権運動へと引き継がれ、今日に至っている。

 外国人だからと不利益に泣き寝入りをしてきた同胞が、内外人平等の世界の人権潮流の中で市民意識を持ち、三権分立が確立された民主主義の国で差別や社会悪を司法の最高峰に告発し、その是非を争うことも今では珍しくない。尹さん以外にも国籍条項では鄭香均さんが、地方参政権では李鎮哲さんらが闘いを挑んでいる。


司法は行政に追従するな

 ところが、その最高裁で信じがたい事態が起きている。記憶に新しいのが再入国許可と在留資格の確認を問い続け、四月十日に判決の出された崔善愛さんの裁判だ。

 最高裁は福岡高裁の勝訴判決を退け、「拒否者への再入国不許可は、法務大臣の適切な処置」と断じた。行政へ追従するのも司法のあり方とでもいうのだろうか。

 六五年の韓日国交正常化でもたらされた崔さんの「協定永住」は、こうして剥奪が確定した。在日同胞がこの国で生きる基盤となる「在留資格」は、かつて法務役人が言い放った「外国人は煮て食おうが焼いて食おうが自由」という旧態依然の体質の前に膝を折られたのである。


予断許さぬ司法の行方注視を

 しかも、「裁量権」行使の背景に挙げた理由が、青年会や婦人会などによる指紋拒否や民団の指紋留保が続出して、出入国管理行政に支障があったためだという。子どもたちには指紋を押させないとの思いから始まった外登法改正運動は広く内外の支持を受け、韓日両国の「九一年協議」によって指紋押捺は永住者などから廃止された。

 外登法はついては、かつて北韓からのスパイを水際で防ぐのに有効で、それは韓国の国益にもつながる、と法の趣旨を逸脱する暴言が平然となされていた。有事を想定するあまり善良な在日外国人市民を犯罪予備軍に貶め、治安当局が指紋のコピーを入手したり、指紋を強制する側の苦痛を軽減する名目で係員に手当が支給されていることも明るみになった。在日外国人の公正な管理に資するといいながら、実態はかくも人権軽視の悪法ぶりだったのである。

 在日同胞の人権よりも法務大臣の「裁量権」を優先する挙に出た最高裁を相手に、外登法を含めた裁判の展開は予断を許さない状況だ。司法の行方を注視しよう。

(1998.6.24 民団新聞)



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