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今、国籍を保持して生きる意味

金敬得弁護士の寄稿から



■韓日に内外人平等訴える主人公に

 在日同胞の人口(特別永住者数)は、八四年末の六十四万二千七百二十七人から九七年には五十三万八千四百六十一人になり、年平均で九千人弱減少している。

 減少の理由は、八五年に日本国籍法が父母両系主義になったことが大きい。それ以前の父系血統主義では正式婚の場合、韓国人父を持つ子どもは韓国国籍となった。しかし父母両系主義の場合は母が日本人でも日本国籍が与えられ、外国人登録をしない。

 これによって、外国人登録上から見れば、在日韓国人が減少した。同時に韓日の二重国籍者が増加している。


■歴史に役割り残そう

 日韓、日朝の二重国籍者が増えているのは国際結婚が増加していることが理由としてあげられる。九六年時点で韓国・朝鮮人同士の婚姻件数は実質的に二〇%を切っている。

 一方昨年、韓国も父系血統主義から父母両系主義に国籍法を改正した。これによって、これまで日本国籍者となっていた日本人父、韓国人母の間から生まれた子どもも韓日二重国籍者になり、韓日の国際結婚から生まれる子どもは全て二重国籍となる。

 このような子どもたちは現在、韓国国籍者のほぼ倍に当たる約七千人が誕生している。


■二重国籍問題が台頭

 したがって、二重国籍者の民族教育を含めたアイデンティティーが在日同胞社会の大きな問題となっている。

 一方、帰化者数も近年増えている。したがって、単独韓国籍を保持して生まれてくる者の数より死亡者が多いため、単独韓国籍者は自然減になっている。

 このような状況で在日同胞社会をどう捉えていくのか、在日同胞をどのように規定していくのかを含めて考えなくてはならない。民族と国籍との関係が問われている。

 在米同胞はほとんどが米国籍を取る。しかし、韓国系米国人と規定している。日本では韓国系日本人という表現はほとんど使われず、韓国国籍を放棄して日本国籍を取得した場合、「韓国系」は消えてしまい日本国民になり、帰化者という位置づけをする。

 では二重国籍者の場合、韓国の国籍も戸籍もあり、日本の国籍も戸籍もある。このような人をどのように考えるのか、この点が今後論議されていくところであろう。

 これまでの日本社会と在日同胞の関係を見ると、年金や地方自治体職員、大学教員など様々な生活権に国籍条項があった時代、泣く泣く帰化していった同胞が多かった。

 日本は、外国籍を理由としての差別によって同化に追い込んでいった。差別が嫌なら日本への忠誠を誓い、日本の名前を使って日本国籍をとればよいという方向であった。民族イコール国籍という帰化行政をとってきた。

 このような単一民族志向で、戦前の創氏改名そのものの帰化に対して在日同胞は反発してきた。息子が帰化すると言えば親子で殺し合いになるような深刻な状況の中で、帰化した同胞は在日社会に入れず、在日社会も帰化者を排斥してきた。


■国籍法改正で変化

 しかし八五年の国籍法改正によって日本社会に変化が起こった。国籍法改正と同時に戸籍法の改正も行われた。改正前は日本の戸籍に外国姓を載せることは絶対に認めなかった。改正後は外国人配偶者の姓を使う場合は婚姻後六カ月以内に届ければ可能になった。

 このような国際結婚から産まれた子で、日本国籍を持つ外国人親の姓を使う存在がでてきた。

 韓国籍を持つ在日同胞は現在五十五万人のうち、民族名を名乗っているのは一割から二割。帰化者と二重国籍者を会わせた数はおそらく韓国籍を上回っている。帰化者と二重国籍者の内、民族名を使っているのは一%ほどに過ぎない。

 このような状況の中で、「民族と国籍は違う」ので日本国籍を取得し、本名を使って民族的に生きればよいという論理は、現実的には担保されていない。ただ、民族名を使う部分が少しずつ増えていることも事実だ。

 在日韓国人にとって韓国籍を保持しながら日本で民族的に生きていくことの意味を今、改めて考えなければならない。一つは、植民地支配の残滓である創氏改名からすらも解放されていない状況を克服するためにも、民族的主張としての国籍が必要だ。

 民族名でも帰化を認める現状の中で、国籍は日本でも民族名を名乗ればいいとする論議もある。

 しかし、大多数が民族名を名乗れていない在日社会では、民族的に生きるための抵抗概念としての国籍という意味が強い。少数の個人が日本国籍取得後も民族名を持って生きているが、トータルとしてはできていない。日本国籍取得が民族的な生き方を在日同胞全体におよぼすことになるだろうか。


■ボーダーレス時代に

 もう一点は、二十一世紀の社会で日本国内の少数民族という存在になることのみではつまらない。二十一世紀は間違いなくボーダーレス社会となり、ヨーロッパがEU(欧州連合)になっていくように、日本も韓国も国民国家概念は無くなっていく。ボーダーレス社会になっていくとはいっても、その方向へ導いていこうとする少数者がいなくてはならない。その先駆者になるのが在日同胞だ。

 在日同胞は、歴史の犠牲者として日本に居住し、日本の同化政策に抗しながら外国人としての権利を求め、今や内外人平等社会の先頭に立とうとしている。この方向性を進めていってこそ歴史に積極的な役割を残せる。

 居住国において国籍を維持しながら日本の社会を国際化する事も必要。同時に韓国の国際化を韓国国民としての自覚を持って進めることが求められる。このような方向こそが在日韓国人としての今後の生き方ではないだろうか。日本の国籍差別を受ける存在であるからこそ、韓国に対しても国籍差別をなくすよう主張できるのではないか。

 日本で生まれ育ったからこそ日本社会を内外人平等に開いていき、同時に韓国、北韓に対しても主張していくことができる。

 世界的にグローバルになっていくのであって、日本が先か韓国が先かという時代ではない。できるところから進めていくという主張をするために、あえて日本の中の外国人として生きていくことに意味がある。

 ※この内容は、三月末に新幹社から発刊予定の『在日外国人の現在・未来』(田中宏・編著、予価二千円)に詳しく掲載される。

(1999.02.17 民団新聞)



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