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「在日」の優しさを



 四月十日、東京の新国立劇場中劇場に足を運ぶ。在日同胞三世の舞踊家、白香珠の特別舞踊公演を観るためだ。

 会場は「天上之舞姫」の芸術にふれようとする客であふれていた。チマチョゴリの制服に身を包んだ朝鮮学校の子どもたちが、上気した顔で先輩の晴れ姿を心待ちにしている。私も初めて接する白香珠の舞踊の世界に、少しどきどきしていた。これが一期一会の生の舞台の醍醐味か。いやがおうにも会場の空気がピーンと張る。幕があがった。

 「舞台と会場を一体化させたい」と常日頃から語る彼女は、指先一つひとつに魂が宿っているかのように、柔らかな動きが女性美を象徴するかのように、客席をうっとりさせていく。小さくて華奢な体なのに、大きな舞台に全く憶することがない。

 最初の演目、五面太鼓舞から十四番目のチャンゴの踊りまで、古典と新作のおよそ二時間の公演は、素人の私にも長さを感じさせないほどテンポよく進んだ。民族舞踊に魅せられ、本物を求めて韓国に渡った在日女性の気持ちが、わかるような気がした。

 白香珠は「朝鮮籍」のまま、昨年初めて韓国入りし、ソウル公演を大成功させた。今年三月には急きょアンコール公演が決まり、釜山をはじめ多くの本国の同胞の前で舞い、拍手喝采を浴びている。

 「在日の舞踊を多くの人に」。せめて、文化・芸術の世界には「南だ北だ」と無粋なことを言わずに、自己実現を果たそうとする同胞を見守りたいと思う。祖国分断の痛み、在日分裂の哀しさを知る同胞には、それができる優しさがあるはずだ。

 「私は芸術に命をかけている」。初めて会った時には、彼女のこの言葉に気圧されたが、会場では息づく肢体に打たれていた。(C)

(1999.5.05 民団新聞)



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