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桐のタンス



 韓国文化院の入り口に、ずっしりと存在感をアピールしている箱が一個ある。最初はただの箱だと思い、通り過ぎてしまったが、時間が経つにつれ一回触り、二回触るうちに韓国アンティークへの関心が芽生えた。

 正体は韓服を入れる桐のタンスだった。どっしりしたしゃれっ気のない形からは不気味さえ感じるが、韓国の嫁入り道具の一つとして昔は女性と関わりの深いものだったらしい。

 韓国の古い言葉に、家に女の子が産まれると、庭に桐の木を植えるという話がある。何で桐の木を植えるのか不思議だったがやっとその理由がわかるような気がした。

 それは、娘が大きくなって嫁に行く頃、その木でタンスを作って嫁に出したのではないか…ということ。

 タンスをじっと見つめていると文化院長は「そろそろ嫁に行きたくなったのかな?」といじわるな質問をする。

 昔はどの家庭にもあった韓服タンスは、一九七〇年代のセマウル運動の勢いで洋服タンスに様換えし、田舎に行かないと見ることができなくなったという。今や田舎はおろか骨董品店か博物館でやっと見られるようなちょっぴり悲しい話になってしまった。

 最近は韓国でもアンティークに人気が集まり、骨董市に足を運ぶ若者も増えて、デートを楽しむカップルもいるというロマンティックな話も耳にする。暗い灯りの下で一折り一折り丁寧に服を作り、大切に大切に桐タンスの奥に保管していたオモニの姿は今は見ることができない。

 時代の小道具になってしまった素朴で飾り気のないその姿に魅力を感じ、いつ見ても飽きない色と形からは余裕さえ感じられる。嫁入り道具の一つとして桐のタンスを品目に入れようかな。(H)

(1999.05.19 民団新聞)



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