民団新聞 MINDAN
在日本大韓民国民団 民団新聞バックナンバー
北韓警備艇の領海侵犯

同胞ら北韓の武力挑発に憂慮



 韓国西海岸沖(黄海)の南北境界線を北韓の艦艇が侵犯したために起きた15日の砲撃戦に、韓半島の平和と安定を願う在日同胞社会からあらためて憂慮の声が起きている。幸い韓国側が冷静な対応に終始したことで大事に至らなかっただけに、事件を和解と交流の契機にしてほしいとの願いが強まっている。


■安保第一に平和維持を

 洪性仁さん(63)=民団大阪府本部団長  北韓軍の領海侵犯及び南北韓交戦は、在日韓国人として遺憾に思うと同時に、怒りを禁じえない。北韓は武力挑発を即時放棄して、人類社会の平和と繁栄のため、共存共栄の対話に応じるべきである。

 世界の構造は、脱冷戦時代を迎えており、北韓は民族的利益を追求する見地から南北韓間の敵対的関係から平和的な協力関係に、政策転換をしてほしいものだ。韓国政府は韓半島の平和維持のため、安保を第一に、断固たる姿勢で武力挑発を阻止しつつ、和解と交流増進を図るよう希望する。


■同族として北韓に憤り

 朴善国さん(50)=民団山梨県本部団長

 報道されている事実で判断する限り、北韓には紛争を自らの外交カードに利用しようという意図が透けて見える。それも、マイナスの要因であるところにやりきれないものを感じる。

 今回の砲撃戦しかり、一連の「テポドン」騒動にしてもそうだ。こうしているうちにも国内では多くの住民が食糧危機で苦しんでいるというのに。同族として、憤慨を通りこしてあきれかえっている。こうしたことで様々なアクシデントを被る海外同胞としては、いかなる理由があろうとも紛争の自制を望む。


■対話ムードぶちこわし

 姜在彦さん(73)=大阪、花園大学教授

 南北次官級会談が21日に予定されていた。しかも韓国は肥料十万トンを北に送るてはずも整えていた。対話ムードが盛り上がっている大事なとき、北が冷水をかけるような行為に出た意図が理解できない。おそらく北自身の内部事情なのだろう。

 北は故金日成首席の時代から南北の緊張関係を自らの体制維持と合理化に利用してきた。韓国の包容政策や食糧援助も北の体制崩壊をもっと促すものと映っているに違いない。しかし、こうした事態が引き起こされる度に在日韓国人をみる周囲の目も厳しくなる。韓国人も在日同胞も同じ民族。平和を思いやる政治ができないものか。


■韓国の冷静な対応に好感

 全在紋さん(53)=大阪、桃山学院大学教授

 北は追いつめられて、状況の打開を図るため"瀬戸際外交"を仕掛けてきている。残念としか言いようがない。

 韓国が過剰反応したりせず、冷静な対応に終始しているのは正しい判断だと思う。ありがたい。ここはどこまでも包容しながら、北を話し合いの土俵にもっていって欲しい。在日の立場からは、北に帰っている10人の同胞のその後の生活が気になるところ。彼ら仲間のことを考えると限界はあろうが最後まで包容政策がプラスの結果となって実現できるよう望む。


■紆余曲折はやむをえず

 金珍寧さん(64)=旅行代理店経営、東京

 南北の和解と交流を進めていくうえで、多少の紆余曲折はしょうがない。これをとって金大中大統領の「包容政策」を批判するのはおとなげない。野党は政策で争うべきだ。幸い事態は鎮静化しつつある。"雨降って地固まる"という。北韓も侵犯行為が無意味なことを少しずつ分かってくるでしょう。私たちは韓国の包容政策を温かく見守り、北韓の軍事的挑発には厳しく叱咤していく必要がある。


■緊張関係の解消を望む

 具末謨さん(63)=民団東京本部権益擁護委員会委員長

 祖国の平和と安定を心から祈念してやまない海外国民の1人として誠に悲しい。緊張関係を一刻も早く解消するための平和条約の締結が急がれる。今年中に南北頂上会談が成功裡にもたれることがすべての心配を取り除くカギであり、その成功を待ち望む。

 本国で新しい世紀を準備する国民和合運動(第二建国推進委員会)では、南北和解・交流協力を活性化することを主要課題としている。在日同胞も積極的に参与しなくてはならない。


<北韓警備艇領海侵犯の経緯>

 事件が起きたのは、韓国と北韓の間で海の境界線をめぐって軍事緊張が続いている韓国仁川港の北西に位置する延坪島付近の海上。

 韓国軍の発表によれば、15日午前9時半ごろ北韓の警備艇や魚雷艇など7隻が境界線を越えて南下してきた。これを韓国の警備艇など10数隻が体当たりなどで阻止しようとした際、北韓側が韓国側の哨戒艇を機関砲で先制攻撃、これに対して韓国軍側も機関砲などで応射したため約10分間、激しい銃砲撃戦が展開された。

 北韓の1隻が沈没、もう1隻も沈没状態の2隻を除いて六隻が北側海域にいったん引き揚げた。米国防総省の話では北韓の将兵30人以上が死亡したとみられている。

 現在は小康状態に入っており、いまのところ報復攻撃など軍事的な動きはない。

 しかし、韓国側は付近海上に護衛艦や哨戒艦など大型艦艇を含む大量の艦船を出動させ厳戒態勢を維持しているほか、陸上の南北軍事境界線でも将兵の休暇を中止するなど警戒を強化している。米韓連合軍でも対北情報監視態勢の「ウォチコン」を通常の「3」から「2」に格上げした。

 問題の境界線は韓国動乱の際、北韓南西海岸沖の島島の多くが韓国・国連軍の支配下にあったため休戦後に韓国領になり、国連軍が北韓領と島島の間に「北方限界線(NLL)」を設定し実質的な南北境界線としたものだ。

 しかし、北韓は自国領に近いためこれに不満で承認しなかった経緯がある。ただ、1992年に韓国と締結した南北基本合意書は、海上の境界線を当面、「これまで双方が管轄してきた区域とする」としているようにNLLの存在を実質的に認めてきた。北韓はそれを実力でくつがえそうとしたため、韓国側は「領海侵犯」として実力で対応したもの。

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<適切だった韓国の対応>

呉忠根・帝京大教授が語る

■南北対話の促進望む

 今度西海(黄海)で起こった武力衝突事件は、今最盛期を迎えているワタリガニの漁場を、北韓が一方的に広げようとしたことが直接の原因だった。

 しかし、これはあくまでも表面的な原因に過ぎない。北韓の本当の狙いは1953年の休戦以来、南北間で守られてきた海上の境界線(韓国では「北方限界線‥NLL」と呼ぶ)をなし崩し的に改訂することであった。

 1953年7月の韓国動乱の休戦当時、制海権を完全に国連軍が握っているなかで引かれた現在の境界線が、北韓にとって窮屈なことは否定できないだろう。実際、北韓はここ二十数年来、境界線の改訂を主張している。


■「北」の頭越し外交、実力阻止

 しかし、国連軍側はこの要求を拒否してきた。なぜなら、それを認めると、韓国が領有する沿岸の島島は北韓の"領海"内に取り込まれ、その安全に致命的な打撃となるからである。

 かつて韓国政府は、度重なるセン水艦や高速セン水艇の侵入事件に、比較的穏便に対応してきたことは記憶に新しい。

 そこで、北韓はぎりぎりの手段を動員して、漁場確保と境界線変更を達成しようとしたのが、今度の越境事件である。

 この事件への韓国政府の対応は適切だった。政府は、領土・領海を守るという一次的責務を果たしただけでなく、北に対して、南との対話に背を向けたまま、一方的行動で自らの目的を達成することはできないことを、実力で示したからだ。

 政府の進める「太陽政策」が成功するかどうかは、現段階では分からない。「太陽政策」はその呼び名のとおり、北韓に寛容な態度をとることによって、最終的に北の閉鎖体制を開放に導こうというものである。

 しかし問題は、当の北韓が、体制の変質は社会主義の崩壊につながるとして、開放は絶対しないとの立場を固守している点だ。なにより金正日総書記自身が、資本主義風潮はたとえ些細なことであっても、決して容認してはならないと繰り返し警告している。

 常識的に言っても、北韓は経済難とはいえ、自己の体制を変えてみせると公言する「太陽政策」を、打算なく受け入れるほどナイーブではないだろう。

 この政策が"成果"をあげているか否かは、北韓自身が一番よく知っているとみなければならない。その意味で、願望に基づく「太陽政策」は諸刃の剣の側面をもつ。

 北韓が韓国の援助を受ける他方で、食糧や肥料の輸入に当てるべき資金を、ミサイル開発や高速艇建造に回さないという保証はないからだ。(投稿)

(1999.06.23 民団新聞)



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