民団新聞 MINDAN
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マルセ太郎の「イカイノ物語」

13日から6都市で公演



「在日」を日本人に伝えたいと語る
マルセ太郎さん

■「在日」を日本に伝える

 「3日いたら嫌になるのになぜか懐かしい」―マルセ太郎さんが生まれ故郷、「猪飼野」への屈折した思いを見事に昇華させ、笑いと涙の舞台劇にした。作品は「イカイノ物語」(マルセ太郎作・演出)。この街で時代に奔弄されながらもたくましく生きる在日韓国人一家を描いた。すべてマルセさんの実体験に基づく。今は亡き在日1世オモニらへのオマージュでもある。

 マルセさんが生まれ育ったのは「猪飼野」の一角にある貧しい長屋。少年時代から上昇志向が強く、高校卒業後間もなく猪飼野から「脱出」した。しかし、猪飼野はマルセさんにとってここ数年、「断ち切ることのできない肉親」として心の中で生き続けてきた。


■自らの半生、笑いと涙で

 「猪飼野は一世がつくった街」。済州道出身の在日一世女性は特に働き者だったともいう。マルセさんのオモニも例外ではない。根強い差別と偏見のなか、マルセさんを長男とする3人の子どもを育て上げた。

 オモニは、マルセさんが家庭を持ってからも「メシ食べているか」と気遣うのが常だった。肉親に対する情愛の激しさは昨年10月、マルセさんが初めて故郷の済州道に里帰りしたとき、見ず知らずの住民から「アボン(父親)が顔だけ帰ってきた」と言われて再確認した。

 「こんな一世がいっぱいいた」とマルセさん。こうした旧きよき時代へのあこがれが、マルセさんを舞台化に駆り立てた。

「イカイノ物語」の一場面


■チェサの場面からスタート

 舞台は大阪に住む四歳年下の弟宅でのチエサの場面から始まる。厳粛な儀式の最中、理由なき理由で兄弟げんかが始まる。肉親としての情愛の裏返しで、つい骨肉の争いに発展してしまう。派手な大阪弁の応酬、乱暴な言葉使い、けんかは日常茶飯事。在日同胞社会ではごくあたりまえに繰り返されてきた光景も笑いに変えてしまう。マルセ喜劇の真骨頂だ。

 一転、舞台は変わり家族団らんの場面に。マルセさんはここでオモニに渡日史を語らせる。そして、マルセさんにとってはたった1人の妹の病死。オモニは自らの運命(パルチャ)を呪い、ショックで痴ほう状態に。そんなオモニも、孫が連れてきた花嫁のチョゴリに一瞬だが正気に返る。観客を笑わせる一方で、しんみりさせ、考えさせもさせる。

 創作はまったく加えてない。すべてマルセさん自身の実体験に基づいている。マルセさんがこれほど赤裸々に自分自身をさらけだしたのはこれが初めてだ。ガンにむしばまれてからは「2年先までしか浮かばない」体。生あるうちに「在日」を日本人の観客に伝えることは、芸人としての自らの存在証明なのかもしれない。


■「イカイノ物語」の公演予定

 ▼東京公演  7月13〜18日東京芸術劇場小ホール2

 ▼富山公演  8月1日富山県教育文化会館

 ▼名古屋公演 8月4日名古屋市民会館中ホール

 ▼京都公演  8月5日京都府立文化芸術会館

 ▼大阪公演  8月6〜7日近鉄小劇場

 ▼広島公演  8月9〜10日広島県民文化センター。

 問い合わせ先は03(3430)7536、マルセカンパニーへ。

(1999.07.07 民団新聞)



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