民団新聞 MINDAN
在日本大韓民国民団 民団新聞バックナンバー
文化センター「アリラン」、日帝時代の貴重な資料公開

韓国産業経済の実態克明に記録
朝鮮総督府作成資料、日本人研究者が寄贈



戦時下の経済政策を知る
手掛かりとなる「會社表」

 【埼玉】韓国の公文書館に保管されている朝鮮総督府時代の貴重な資料をコピーしたものが、埼玉県川口市にある文化センター・アリラン(朴載日理事長)で一般に公開されている。戦時下の韓国の産業経済の実態を、朝鮮総督府が具体的な統計で分析したものが中心。これまでは焼却されて、資料そのものが存在しないとされてきただけに、日本の研究者に喜ばれている。

 冊子で主なものは「會社表」(一九三一年)、「従業者移動防止令関係例規綴」(一九四〇〜一九四一年)、「朝鮮職業紹介令実施に就て」、「食糧事情と治安対策」(一九四二年)など。

 明治大学文学部の海野福寿教授が十年前、ソウル大学の協力のもと釜山の記録保存所でコピー、自身の研究室で保管してきた。このほど広く研究に役立ててほしいと文化センター・アリランに寄贈した。

 文化センター・アリラン、近現代史研究所の専任研究員、幸野保典さんはこれらの資料を通して「これまで手つかずだった戦時下の朝鮮の経済政策が分かる」と喜んでいる。

 このうち「會社表」は当時の法人組織について会社名、創立年月日、事業目的、資本金、損益金までも調べた五百ページを超す膨大な資料。「日本の植民地下の産業政策と日本との関係」を研究している幸野さんは「土地調査事業と並ぶ朝鮮総督府の二大政策とされる『会社令』(一九一一年一月〜一九二〇年四月)という規制の下での日本企業の進出度合い、民族資本による企業活動の推移をみることができる」と話している。

 これら朝鮮総督府時代の資料が韓国の記録保存所に「日帝時代」として分類保管されていることは、日本の一部研究者の間でも知られていた。しかし、たとえ純粋に研究目的であっても、閲覧にあたっては項目ごとの審査があり、短い入国期間内に目的の資料を探しあてることは至難の業といわれる。

 戦時下の韓国農村に興味を抱き、地主制の違いを調べようとした海野教授も同様だった。ソウルにある韓国政府の記録保存所に足しげく通ったが、一回の審査に約二週間かかりながらプライバシー保護などの理由で閲覧が認められないこともしばしばだったという。

 幸い当時のソウル大学総長が理解を示し、同大学との共同研究ということで釜山で生の資料を直接コピーすることに成功した。このうち、海野教授がもうひとつの研究テーマとしていた韓国人強制連行問題については、韓国政府が一九五七年に行った「倭政時被徴用者名簿」(慶尚道編)をてがかりに九五年七月、「植民地朝鮮における労務動員政策の展開」と題する学術論文にまとめた。

 海野教授は「国立国会図書館への寄贈も考えたが、誰でも自由に使えるようにと文化センター・アリランを選んだ」と話している。


■文化センター・アリランとは

 在日同胞二世の朴載日さんが日本と韓国との間の相互理解と共生の願いを込めて建てた。図書館機能と研究所機能、文化センターとしての機能を併せ持つ。

 蔵書は約三万冊。韓日関係史、及び差別撤廃運動関係の資料を含む故梶村秀樹氏の蔵書を「梶村文庫」として別置、このほか李朝時代の貴重な文献を含む故田川孝三氏の蔵書や姜在彦氏の蔵書を受け入れている。 研究所では関東地方在住の研究者を中心に「朝鮮近代地域史料研究会」「民族関係のなかの朝鮮民族研究会」などが定期的に行われている。このほか、各種文化講座を通じてネットワークづくりも進んでいる。開館時間は正午から午後七時まで。水曜日と日曜・祝日は休館。電話048(259)2381。

(1999.7.21 民団新聞)



この号のインデックスページへBackNumberインデックスページへ


民団に対するお問い合わせはこちらへ