民団新聞 MINDAN
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北韓はどこへ行くのか

黄長Y・元北韓労働党書記に聞く <上>



本紙のインタビューに答える
黄長Y・元北韓労働党書記

 北韓は一体どこに行こうとしているのか。テポドン2号を本当に発射するのか。伝えられる飢餓の状況はどうなっているのか。その動向が世界の耳目を集めている。そして、在日同胞にとって想起しなければならないのは、人質に陥れられた約10万人の北送同胞と日本との友好に冷水をあびせ、その主権に真っ向から牙をむいた日本人拉致である。民団新聞では、97年に韓国に亡命した黄長ヨウ・元北韓労働党書記に単独インタビューし、北韓の実態などについて聞いた。(聞き手・ペ チョルン民団中央本部宣伝局長)

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北送同胞の命運
思想性疑い弾圧へ
就職も主要機関に送らず

 ■全世界に先駆け、日本で発売された著書『金正日への宣戦布告』が、10万部の大台に達する勢いだと聞いていますが、どう評価されますか。

 黄 日本の読者を通じて北朝鮮の実状を広く知らせたいという気持ちは持っていますが、売れ行きについては考えたことはありません。相当売れたことは、いいことだと思っています。

 ■在日同胞が北に帰った「北送事業」が、今年12月で40年になりますが、それについては。

 黄 ほとんど知りません。その当時、私は金日成の理論書記をしていました。金日成はその事業をとても高く評価しており、私が受けた印象は「金日成はどこまでも南朝鮮に対する北朝鮮の優越性を誇張するのが目的ではなかったか」というものです。

 当初は本当にいい気持ちで歓迎しました。少し経ってから北朝鮮政権が、帰還者たちを信じないようになり、疑うようになり、弾圧するように変わってきたと思います。

 ■疑われるような事実、事件があったのですか。

 黄 そういうことはなかったと思います。65年から私は金日成総合大学の総長をしていましたが、その時に在日朝鮮人の子弟たちのために特別な寄宿舎を造りました。それは地元の学生に比べれば、ずっと高い水準で待遇しました。

 それでも彼らは「自由がない」と、とにかく不平たっぷりで、たびたびそこを訪問して、なだめてやったことがあります。だから、秘密警察などでは「どうも質が違う。異質的な分子がここに交わっている」というふうに考えたのではないか。

 ■総合大学に在日の子弟たちがどれくらい入っていたのですか。

 黄 正確な統計は知りませんが、二百名近くいたのではないかと思います。帰還者たちは総合大学よりも工業大学とか医科大学など、技術方面により多く行ったように思われます。

 北朝鮮で中学を卒業した学生よりも全般的に見て成績がよかったんです。そこではどこに就職するかが問題であって、就職の問題自体は問題にならない。失業者がいないから。

 しかし、重要な所には、やはり信用しないから送らないですね。秘密機関など、とにかく重要な機関には送らない。

 総合大学と科学院がありますが、総合大学は民族の幹部を養成する機関だといって、なかなか帰還者たちを採用しない方針ですね。

 しかし、科学院は純粋な科学研究だということで、総合大学でも出身成分に問題のある学者たちは、みな科学院に送ってしまう。だから科学院には帰還者たちも少し配置されました。

 ■住民の中にも帰還学生を異質分子にみなす空気が広がったのでしょうか。

 黄 初めは同情心をもって対しましたが、だんだんと色眼鏡で見るようになったんです。何といっても経済的な条件が違うから、しっくり合わず、別名をつけて排斥するような気運が自然と起きてきました。

 ■日本人妻を含めて約10万人が戻ったわけですが、行方不明やスパイ罪をでっち上げられて銃殺されたケースなど、何か情報は。

 黄 そういう統計は私はほとんど知らないです。帰還者の統計など、対南事業を行っている統一戦線部などが、直接在日朝鮮人との関係をもっています。

 ■在日朝鮮人が消息を絶った家族のことを調べてほしいと言えば、朝鮮総連を通じて調べられるわけでしょう。

 黄 総連を通じてね。しかし、総連はまったく統一戦線部の指示に従って動いているから、在日朝鮮人からそういう声があがっても、統一戦線部に「悪い人だから処刑された」と言われたらそれで終わりです。でなければ、何か他の理屈をつけて死んだと言ってもいいし。

 ■上からの一方的な報告を信じるしかないのですか。10万人の人質がいるために、異議申し立てというのはできないのですか。

 黄 それは個人、個人の問題では、そのように言うことができると思うんです。在日朝鮮人は人質を捕られてどうにもならないし、幹部達は制限を受けていると。

 しかし、朝鮮総連自体は朝鮮労働党の組織だから、彼ら自体は絶対服従の関係であって、朝鮮労働党が考えていることと総連が考えていることは同じです。総連にはできるはずがない。朝鮮総連というのは、朝鮮労働党の日本の支部です。絶対に服従するようになっています。


北韓傘下の朝鮮総連
労働党に絶対服従
「参政権反対」も北韓の指示

 ■民団の地方参政権獲得運動に対して、総連は当初は反対していなかったのに、突如として反対し始めたのはなぜですか。

 黄 朝鮮総連自体の考えは一つもないと思います。完全に北朝鮮の指示に従っているから。

 ■日本人妻が2回、一時帰国を果たしましたが、在日朝鮮人の1時帰国の可能性は。

 黄 日本に送られた日本人妻が、生存しているすべてではないかと思います。特別な待遇を受けている人たちで、完全に「朝鮮労働党化」されています。例えば、党の歴史研究所の傘下にある革命記念物を管理する任務などを担当している。

 帰還者たちの中にももちろんそういう人がいますから、個別的に検討して送ることができると思うんです。ただそうなれば、他の多くの帰還者たちが異議を申し立てるのではないか。だから難しいんです。

 ■総連中央の韓徳銖議長の娘、韓音典はたびたび日本に戻っているという話がありますが。

 黄 それも最高指導者の金正日まで報告しなければならず、彼の直接の許可なしにはできないです。韓音典はちょうど私が国際部を担当していた時に、そこで働いていましたから、そのことはよくわかっています。韓徳銖は特別扱いですね。指導部が彼を信用しないのは確かだけれども、今のところ彼をないがしろにすることができない状態です。

 ■黄先生が97年に東京に来られた時に、彼女のグループも一緒に来ていて、一時どこかに失踪していたという話がありますが。

 黄 それはないですね。みな一緒に帰りました。ただ韓音典だけが少し残っていたんですね。それで私が亡命したら彼女も帰ってこないのではないかという〓はありました。


日本人拉致問題
対南工作の先兵に
日本語会話の指導員役も

 ■在日同胞の立場からもう一つ気になるのが、日本人拉致の問題です。日本政府が公式に認めているだけでも7件、10人が北当局によって拉致されています。わずか中学1年生の横田めぐみという女の子が学校から帰る途中で拉致されましたが、こういう問題が手つかずのまま日朝交渉を行おうとすると、日本の国民感情、世論が許さない。拉致について何か聞かれたこと、何のために拉致し、拉致された日本人がどういう役割を担うのでしょうか。

 黄 確かなことはわかりません。ただ誰から聞いたかも記憶していないけれども、大体は「よど号事件」などでそこにいる人たちの妻、配偶者として拉致してくる。そういうことはよくあったのではないかと私は考えています。

 女の人たちが多かったと思うんですよ。その配偶者として務めながら、日本に送られる工作員たちの日本語の会話を教えたりする役割だと思います。

 また、彼らをフランスとか南米とか他の国に送り、そこの日本人との間で工作するような例もあったように思います。四つの対南工作部がありますが、その中で海外情報は、今は35号室と言っていますが、外国の国籍をもって外国に行って、そこで仕事をしながらスパイ事業をやっている。そういう時には朝鮮人だけでなく、他の国の人たちを混ぜてから送ったほうが便利だから。

 ■スパイ事業に取り込んでいくわけですね。

 黄 いったんそこに入れば抜けきらない。

 ■それでは横田めぐみさんらの現在、生死を含めて…。

 黄 それは生きているはずですよ。殺すために何も拉致する必要はないから。それはもちろん生きているだろうと思います。ただこういうふうに利用しているか、直接彼らを訓練しておくのか、でなければ外国に送ってやるのか、でなければこの日本人の工作員の妻として送られるのか、それは用途はまちまちだと思う。

 ■拉致した日本人を返せと、今年5月に2000人規模の大集会が開かれたのですが、世諭の高まりに反発して拉致日本人は元々いなかったことにするために、消してしまうことは。

 黄 それはない。

 ■それはないですか。利用価値があるうちはどんどん利用するということですか。

 黄 そうですね。また、共産主義社会ではそういうことはないですよ。どこまでも自分たちに忠実に仕えた人に対する義理は守ります。

 ■それは金正日であっても守りますか。

 黄 守りますよ。必ず守ります。もし金正日に反対した何かの行動がなければ守ります。

 ■拉致された日本人が、他の国に送られてスパイ活動をする時に、千載一遇のチャンスを使って亡命する可能性もありますね。

 黄 ありますよ。しかし、ほとんどそれはできないだろうと思います。待遇もいいし、また思想的に保障されており、背反した行為が起こった場合には、どこまでもついて行って殺してしまうということを目の当たりにしているから。彼らはできないだろうと思います。

 ■目の当たりにしたというのは、亡命しようとして失敗した人のことですか。

 黄 失敗した人たちとか…。彼らの組織はいたる所にあります。だから難しいということを知っています。何かの機会に私が聞いてみたら、「逃げたところでしょうがない」と言う人がいました。だからそういうことはできないと。

 ■拉致された人を1日も早く救う道、解決方法は何でしょうか。

 黄 金正日政権を早く覆す以外に方法はないですね。

 ■今でも日本に北からの工作員が送られているんでしょうか。

 黄 規模はわかりませんが、たくさんいると思います。それは日本を重要な基地として使っているから。特に、沖縄などを重要な基地として使っています。中国、香港、マカオなども重要視している。

 ■日本の公安当局の力では防ぎようがないのでしょうか。

 黄 それは知りませんが、工作員という名前で日本に入っている人は一人もいないでしょう。日本に行って民団にも入ることができるし、総連にも入ることができる。帰化もできるし、そういう形で送られてきます。

 ■工作員の主な目的は何ですか。

 黄 一つは対南工作をすること。もう一つは日本の上層部と連携をとって「親北朝鮮」の政策をとるようにすることです。

(1999.08.15 民団新聞)



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