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介護保険・無年金同胞に大きな負担

弱者切り捨て憂う声も



無年金同胞が多数を占める
大阪堺市の「故郷の家」の入所者

 【大阪】来年4月からスタートする「介護保険法」をめぐって、無年金の在日同胞高齢者が自己負担額に耐えられるかどうか憂う声が関係者から出ている。在日同胞高齢者はその多くが国民年金制度から事実上排除されてきたため、老齢年金の支給対象外となっているためだ。サービスの利用にあたって、たとえ一割とはいえども無年金の在日同胞には大きな重荷となりそうだ。

 大阪・堺市にある特別養護老人ホーム「故郷の家」には現在、定員いっぱいの80人の在日同胞一世が暮らしている。このうち66人は無年金者だ。介護保険が実施されると65歳以上は自動的に第1号被保険者となる。保険料は毎月3000円。さらに、介護や支援を必要とするときは、受けるサービスに対して原則的にその一割が自己負担となる。

 現在、「故郷の家」に入所しているお年寄りの自己負担金は明らかにされていない。堺市の説明によれば、お年寄りの負担金は三段階に分かれるようだ。いずれにしても、特別加算金一万円を唯一の収入源としている無年金者が払いきれるかどうかは疑問の残るところ。おしめ、ティッシュペーパーなどの日用品も購入しなければならず、施設入所であっても食費は自己負担となるからだ。

 これまでは国民健康保険料、毎月三千円前後を支払えば事足りた。保険料を支払っても七千円が残った。孫が来たら小遣いにと、使わずに楽しみに残しておくお年寄りもいるという。こうしたささやかな楽しみも介護保険が実施に移されることで不可能になるとしたら、「弱者切り捨て」といわれてもしかたあるまい。

 現在の入所者は、認定の如何にかかわらず引き続き5年間はホームを利用できるが、大阪市内を中心に134人を数える入所待ちのお年寄りの場合は、これからは要介護と認定されない限り「故郷の家」に入所できなくなる。

 国民年金は1959年の制度発足当初から国籍要件があり、在日外国人は加入したくても加入できなかった。81年に日本は難民条約を批准、社会保障法規から国籍要件が取り払われた。しかし、82年1月1日の段階で六十歳以上の外国人は年齢要件を満たさないため切り捨てられた。同じく、82年1月1日の時点で三十五歳以上六十歳未満の外国人も25年という資格期間を満たすことができず、老齢年金は支給されない。

 86年から施行された改正国民年金法では、1982年1月1日時点で三十五歳を超えていても「カラ期間」が適用されるようになり、金額の少ない老齢基礎年金が支給される。ただし、ここでも86年4月1日時点で六十歳以上の高齢者は「カラ期間」が適用されないため、国民年金制度から事実上排除された。

 大阪府の調査によれば、在日同胞高齢者17,585人のうち約3分の2が無年金者とされる。また、なんらかの年金を受けていてもほとんどが低額であり高齢者になってもその労働で生計を支えなければならないのが実状だという。日本厚生省では低所得者に対しては「必要な措置」を講じるとしているが、その内容はいまだに不透明。


■生活・介護扶助を

 「故郷の家」を運営する社会福祉法人「心の家族」の尹基理事長は「弱者切り捨てにならないためにも、無所得者には生活扶助、介護扶助があってしかるべきである」と望んでいる。

(1999.08.18 民団新聞)



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