民団新聞 MINDAN
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在日へのメッセージ

友人の受賞に寄せて
若一光司(作家)



 先日、私の友人である金敦祚さんが経営する(株)アプロサイエンスという名の会社が、徳島ニュービジネス大賞を受賞した。「遺伝子構造決定のための超微量タンパク質一次構造決定技術の事業化」が高く評価されてのことである。

 10年前に設立された同社は、タンパク質の分析に関する新技術を開発して、各方面の注目を集めてきた。

 私もこの春に、徳島県鳴門市にある同社の研究所を訪ね、分析工程などを詳しく見学させてもらったが、その技術力の高さと研究陣の熱意に、大いに感心させられた。それに金敦祚さんからは、「在日の企業人として、社会発展に明確に寄与できるような事業を育てたかった」といった起業の精神や資金繰りの苦労などを聞かされていたので、今回の受賞は私にとっても、大変に嬉しいことだった。

 そして、この受賞を報じる新聞各紙に、「金敦祚社長」という文字が並んでいるのを見て、思わず胸が熱くなった。時代の先端を行くようなベンチャー・ビジネスを展開しながらも、相変わらず日本名の名刺を使い続けている在日の経営者が、私の周囲でも決して少なくないからである。

 思い起こせば、3年前に私に金敦祚さんを引き合わせてくれたのは、共通の友人でもあるKだった。

 在日2世のKは、親から託された鉄工所を経営する一方で、すべての民族の平等が保障されるような共生社会の創造に向けて、積極的な社会活動を展開した。「だれもが本名で生きられる社会を!」というのがKの主張だったが、彼自身は仕事面では日本名を使っていた。業界の体質の古さが、それを要求したのだ。

 そのKが昨秋、癌のために47歳で他界した時、葬儀は日本名で行われた。それが、鉄工所を引き継ぐことになった遺族の、苦渋の選択だったのである。

 まもなく、Kの一周忌を迎える。金敦祚さんの最大の理解者であったKにとっても、今回の受賞は何よりの供養になるはずだ。

(1999.11.17 民団新聞)



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