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在日へのメッセージ

共同通信社会部記者・前川昌輝



◆リップサービス

 国や自治体に損害賠償などを求める訴訟の判決では、俗に「リップサービス」と呼ばれる裁判官の意見が記されることがある。原告の訴えを退けて敗訴とする一方で、心情や背景など原告側の事情に一定の理解を示すものだ。

 「裁判所の言い訳にすぎない」との批判もしばしば受けるが、中には、制度改正を事実上求める趣旨のため大きく報道されるケースも少なくない。

 こうしたリップサービスが、最近特に目立っていたのが、在日韓国朝鮮人に対する戦後補償関連訴訟だ。

 「日本人と比べ著しく不公平」「立法措置の問題」などと、法改正を促す形でボールを国会に投げ返すことが多くなっていた。

 その国会が、旧軍人・軍属らの在日韓国人への戦後補償実現に向け、ようやく動き出した。

 日本人として従軍しながら、戦後に日本国籍を失うと恩給も障害年金も支給されない。この理不尽な待遇に、「正義、条理に基づく補償を」と訴え続けた声が届くまで、あまりにも時間が掛かりすぎた。

 「正義」という言葉は、一方的な価値観を押し付けるようで使いにくいが、この問題で問われたのは、まさに、この「正義」だと思う。司法の場で制度改正が繰り返し示唆されたのも、その反映だろう。

 それにしても、今回の動きのリード役が、こわもての自民党幹部だったことに違和感を持つのは私だけだろうか。

 自民党に「右傾化批判をかわしたい」との思惑や日韓関係への配慮があるにせよ、他の人権問題に比べると運動の鈍さを感じざるを得なかった。

 先日、傷病者だけでなく元BC級戦犯の補償立法も求める会が発足した。いずれも、参政権問題などに比べ「後ろ向き」のテーマであり、現在検討中とされる1時金支給で全て解決するわけでもないが、関係者の高齢化が進む中、最優先されるべき課題だと思う。

 1日も早くリップサービスが不要になることを願う。

(1999.11.24 民団新聞)



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