民団新聞 MINDAN
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在日へのメッセージ

小林一博(東京新聞・論説副主幹)



 「めぐみ、お母さんがきっと助けてあげる」(草思社)という本を紹介したい。ご存じの方もいるだろうが、中学1年の時、北朝鮮によって拉致された横田めぐみちゃんの母親の手記である。

 この本のタイトルは、二重の意味でせつない。一つは、理不尽にも子供を奪われた母親の心情の現れであり、もう一つは本来国家が全力をあげて救出に取り組むべきことなのに、「お母さんが助けてあげる」と言わなければならない無念さがにじみ出ているからだ。

 拉致されてからすでに22年。この手記を一読すると、子を奪われた母親の悲しみ、苦しみがどれほど深いものであるかをあらためて感じさせられる。

 そして一昨年、思わぬところから北朝鮮の工作員によって拉致され、生きていることが判明する。

 「安〓と同時に、北朝鮮という閉ざされた国から、娘をはじめ拉致された方々を救い出すことの難しさを考えると、気が遠くなりそうでした」

 生死の判明は、また新たな苦悩の始まりだった。このむごさを被害者とその家族に強いているのが、ゆがんだ二つの国だ。

 一つは、いうまでもなく拉致の主犯、北朝鮮である。国家目標である南北統一のために、人命を犠牲にすることをためらわない。

 こうした国と交渉して、被害者を取り戻すのは並大抵のことではない。

 それにもかかわらず、日本政府は、ほとんど何もしてこなかった。

 むごさを強いているもう一つの国は、ほかでもないこの日本だ。

 日朝交渉が近く再開されることになり、赤十字で拉致問題を取り上げるという。政府には国民の生命と財産を守る責務があることを肝に銘じて解決に努力してほしい。

 この本は、特殊な国家犯罪の被害者の慟哭の記であると同時に、政府や国民の一人ひとりに「国とは何か」を厳しく問いつめる告発の書でもある。

 是非ご一読をお願いします。

(1999.12.15 民団新聞)



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