民団新聞 MINDAN
在日本大韓民国民団 民団新聞バックナンバー
北韓の国家的犯罪を斬る<16>

元朝鮮学校理事に聞く ◆下◆



■「帰国」者の調査急げ

 「帰国」した父から無心の手紙が届く。自身の生活も楽ではなく、返事を出すのがやっとだったが、親戚からもらった古い服を送った。こんなはずではないと思う一方で、それでも北に帰りたい気持ちの方が勝った。「飯が食えたらいい」。

 総連の「成人学校」で日本人の奥さんとともにウリマルの勉強を始めた。「帰国運動」が下火になっていく70年代初めである。総連の雑誌は「帰国を前に学習する同胞」と顔写真入りのトップ記事を掲載した。宣伝材料に利用された息子の記事を父親が見た。


■父は処刑?生死も不明

 隠語を駆使しながら息子の「帰国」を何とか止めているのに、まだわからないのか。父はあせり始めた。手紙の内容が露骨なものに変わっていった。ある手紙には「差別された青森よりも住みにくい。疎外されている」という意味のことが書かれ、「みんなで死のうか」という意味に受け取れる表現があった。


■許されぬ「北訪問」

 記事が出た後、北では金正日が後継者として台頭してきた。総連では北の路線を支持すべく勉強会を開いた。「これはおかしなことになった」と思ったが、総連西成支部の委員長が「お金がなくてもウリマルできなくてもいいから」と強力に勧めるので、朝鮮学校の理事を引き受けた。73年頃のことだ。すでに3人の子どもは朝鮮学校に通っていた。

 北への祖国訪問団が始まった。自分がトップで行けると自負していた。常勤の活動者以外では、学校の理事として積極的に学校の中にも入っていき、組織の活動にも力を尽くしてきたからだ。朝銀でお金を借りる手はずも整えていた。

 ところが、組織に非協力的で、裕福なのに寄付もしない人が行くことができたのに、自分は行けない。総連西成支部の組織部長(当時)に「なぜ行かせないのか。順番が違うんじゃないか」と詰め寄った。返ってきたのは「必ずすぐに行かせるようにするから」という言葉だった。コモ(父の姉)も訪問を申請し、予防注射までして待っていたのに、ストップがかかった。コモは総連大阪府本部のH部長に食ってかかったが、理由は明かされなかった。

 支部の組織部長は二度ほど北を訪問した後に、自殺した。「理由はわからないが、きまじめな人だったから、北に幻滅を感じたのではないか」。訪問事業が始まって2、3年後のことだ。その組織部長とはソフトボールチームを30チーム近く増やして総連の運動を大いに盛り上げたこともあった。その後、チームはしぼんでいく。


■伝え聞く父の話

 北を訪問した支部の委員長や分会長らから北の内情がポツポツ伝わってきた。父に会おうとしたが会えず、聞かされたのは、「どうもしょっぴかれたようだ」。恵博氏あての手紙が見つかったからだという。「北を告発する内容が、当局に知られたんだろう」と恵博氏は見ている。

 その頃、中国の吉林省から戸籍の問題で日本に来た同胞と知り合った。その人の義弟が官憲の仕事をしているというので、父の消息を確かめてもらった。答えは「収容所に引っぱられた。母と弟が抗議に行ったが、そのまま帰ってこない」というものだった。父は処刑されたのではないか。総連との訣別の時が刻々と迫ってきた。

 長男が中学3年の夏、高校からは日本の学校に行かせるとはっきり口にした。すると、学校側は「卒業証書を出さない」と圧力をかけてきた。高校に行かせないというのである。

 分会長をしていたコモの息子も「帰国」するつもりだったが、北の異常さがわかって分会長をやめた。代わって生野区から来た新しい分会長は「敵対心を見せるな。喧嘩はするな。上手に逃げろ」と忠告した。地元でなぜ恐れる必要があるのか。支部の役員はほとんど外様ではないか。

 そのうちにスパイ説が流されていると、総連の女性同盟に所属している喫茶店経営の親戚が教えてくれた。分会長会議で「民団に出入りしているらしい。韓国に行って情報を流しているらしい」というものだ。数年前に総連東京本部から父のことを聞きに来た人がいたことを知らされた。腹がたった。それ以来、総連と縁を切った。

 87年、長男の結婚式に韓国から従兄弟(父の兄の息子)が来て、一度遊びに来てほしいと乞われた。95年3月、行方がわからなくなった父に代わり、故郷の済州道を初めて訪ね、先祖の墓前で法事を営んだ。胸が締めつけられた。

 「帰国事業に関わった人たちは、責任を感じるべきだし、総連は日本の家族と連絡が取れなくなっている行方不明の帰国同胞の調査を徹底的にしなければならない。北朝鮮に民主化を求めるとともに、在日同胞のための組織でなければ総連は存在する意味がない」と恵博氏は強く抗議する。

(1999.12.15 民団新聞)



この号のインデックスページへBackNumberインデックスページへ


民団に対するお問い合わせはこちらへ