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在外同胞法の施行

解  説<その2>
(韓国検事・鄭然洙氏 寄稿)



■主要争点検討

一、法の適用範囲と関連した論争検討


1、在外同胞法の適用範囲

◆法の適用範囲◆

□■過去国籍主義を採択■□
国際法に準拠、適用対象明確化も

 在外同胞法は在外国民と外国国籍同胞をその適用対象としている。在外国民とは外国に永住する目的で居住している同胞の中で、韓国国籍を保有している同胞を言う。外国国籍同胞とは大韓民国の国籍を保有した者とその直系卑属として外国国籍を取得した者の中で大統領令が定める者と定義している。在外国民に対しては問題がないが、外国国籍同胞について論議が継続されている。


2、外国国籍同胞の範囲

 まず「大韓民国の国籍を保有した者」の法律上の解釈に関して疑問がありえる。

 在外同胞法で定めた「大韓民国」という現在の政府が樹立した48年8月15日以後を意味するのか、でなければ上海臨時政府、大韓帝国あるいは朝鮮王朝にまで遡及するのかに関してである。現行の憲法が上海臨時政府の法統を継承したことを明示していることも、在外同胞法で「大韓民国」を48年8月15日、政府樹立以後と狭義に解釈することは上海臨時政府を否定する結果を招くという意見もあった。

 しかし、在外同胞法で「大韓民国」という用語を使用したことは、ただ単に国籍保有の基準時点を決定しようとするだけで、それ以前の人々を我が国民として見ないという意味ではない。

 このような解釈上の疑問に対して施行令では外国国籍同胞の範囲を(1)大韓民国政府樹立以後、国外に移住した者のなかで大韓民国の国籍を喪失した者とその直系卑属(2)大韓民国政府樹立以前、国外に移住した者のなかで外国国籍取得以前に明示的に大韓民国の国籍確認を受けた者―と規定する方針だ。


3、外国国籍同胞の範囲と関連した論争検討

 イ、今年8月12日、在外同胞法が国会を通過して以後、一部市民団体と言論では、中国とロシア同胞250万人が適用対象から除外されたのは衡平性に反するという理由で大統領の拒否権行使または即刻改正を要求した。最も大きな反発は日帝統治下で独立運動に率先した在中同胞らが在外同胞すなわち同族の概念から除外されたと考えたからだとみる。

 しかし、既に法律の性格で前述したように在外同胞法は在外同胞の概念を定める法律ではない。在外同胞法第2条で「定義」という用語を使用しているが、これは正確に表現すれば在外同胞法の適用範囲を表している。このような定義規定がなければ各条項ごとに「在外同胞のなかでこの法律の適用を受ける在外同胞」または「法第○条で定める在外同胞」と表現しなければならない問題があるために、条文体系上の定義規定をおくことにすぎない。

 「在外同胞財団法」では国籍を問わず韓民族の血統を持った者として外国で居住・生活する者と在外同胞を定義しているが、これも「在外同胞財団法」の適用対象を規定しただけだ。

 ロ、在外同胞法が過去国籍主義を採択した第一の理由は国際法の原則を受け入れたためだ。最初の試案では「韓民族の血統を持った者で外国国籍を取得した者の中で大統領令が定める者」と韓民族血統を基準に外国国籍同胞を規定したが、外交通商部から「血統主義」立法は国際法の原則に反し、外交摩擦を招く恐れがあるという意見があり、国際慣行も「過去国籍主義」を採択しているし、実際に中国政府が異議を提起したために国際慣行に合せて外国国籍同胞の定義規定を修正した。

 在外同胞法が過去国籍主義を採用した第二の理由は法適用の対象を明確にするためだ。「韓民族の血統を持った者」と言う漠然とした概念では、具体的に誰が該当して誰が該当しないかを区分する基準を定めるには難しいからだ。言い換えれば、純粋韓民族血統者を定義する方法はなく、また混血者の場合はどの程度までを韓民族血統者とするのか曖昧だからだ。

 前述した「在外同胞財団法」では血統概念によって「国籍を問わず韓民族の血統を持った者として外国で居住・生活する者」と規定している。「在外同胞財団法」は韓国文化とハングルを普及して民間交流を促進することを主な目的とする法律であるから、その限界が曖昧だとしても特別な問題はない。すなわち、韓民族血統者かどうか不明であってもハングルを学ぼうとする人や文化を学ぼうとする人に対して教育を実施し教材を供給したとしても問題にならないからだ。しかし、在外同胞法は法律上の権利・義務が付与される以上、その限界を明確にせざるをえない属性を持っているために「在外同胞財団法」と違い規定するようになった。


◆在中同胞への支援策◆

□■韓国国籍の取得を緩和■□
就業機会拡大、滞留朝鮮族も視野

 ハ、外国国籍同胞の範囲を政府樹立後の国籍保有者に限定したことは外国国籍を取得した過去国籍者を適用対象とする法律が現在の国籍所属国の"対人高権"と関連した外交的な摩擦を呼び起こす可能性が多く、その対象を過去国籍者として明白な範囲内で縮小する必要があったからだ。

 48年12月20日に制定された国籍法は「出生した当時に父が大韓民国の国民の者」とだけ規定しただけで、大韓民国政府樹立以前の出生者に対しては何ら規定をおかなかった。すなわち、大韓民国国民の出発点に対する規定がないために、解釈上の問題となっている。このような国籍法規定の不備は国籍法制定当時、南北分断という現実と国交がない国家、特に社会主義国家に居住している韓民族血統者を韓国国籍者に編入するのにあたり、難しさを勘案したためとみられる。

 大韓民国政府樹立以前の出生者の場合、48年8月15日当時の大韓民国内に居住していた韓民族血統者は当然に大韓民国国籍者として見るべきだが、当時海外に居住していた韓民族血統者はセン在的国籍者として大韓民国政府樹立以後に大韓民国国籍者として確認を受けた場合に限って法的な国籍者としてみるべきだ。このような脈絡から法務部では国籍判定制度を運用している。

 したがって、在外同胞法では我が国籍保有者であったことが明白で、外国政府でもこれに関して異議を提起できない範囲に限定して適用対象を定めるようになった。また、このような範囲を限定しただけでなく、外国国籍同胞である可否を判断する祭に立証の難しさを解消できる点も考慮された。


4、中国同胞に対する支援対策

 在外同胞法の適用対象から除外されたことによる中国同胞の失望感と疎外感を最小化し、他の在外同胞に母国縁故権に基づく特例を付与していることとの衡平を保つために中国同胞に対する支援対策を立法の初期段階から検討してきた。

 一方、国会でも在外同胞法を議決するにあたり、次のような在外同胞に対する制度改善事項を法務部と外交通商部に勧告した。

(1)在中同胞、旧ソ連地域同胞及び日本の朝鮮籍同胞とその子女が韓国国籍の取得を願う場合、これを容易にする。

(2)韓国内不法滞留同胞の安定的生活と帰国を保障するために根本的な制度改革を準備し、国内滞留同胞を支援する民間活動に対して財政的に支援するよう努力する。

(3)国内滞留朝鮮族を我々が世話しなければならない同胞とみなす政策を採択する。

 中国同胞に対する支援政策と関連、法務部では在外同胞法一次補完対策をさる10月12日に発表した。その要旨は国籍取得機会拡大、出入国機会拡大、就業機会拡大及び不法滞留者の配慮だ。

(1)中国同胞の国籍取得許容事由を七種類から九種類に拡大した。

(1)48年政府樹立以前に中国に移住した人の中で韓国の戸籍に記載登載されていて生計能力がある「中国同胞一世及び配偶者・未婚子女」(2)叙勲・経歴・機能・資格等に照らして国益に寄与あるいは寄与すると認定された中国同胞に国籍取得の道が開けた。

 参考に既存の七種類の許容事由は独立・国家有功者及び親族、内国人と結婚した者または国内の養子になった未成年者、韓・中修交前の入国後定着し復帰が不可能な者、離散家族再会事務処理規定により認定された者、特別な人道的考慮が認定された者などだ。

 また国内の兄弟姉妹と結縁を望む中国同胞及び配偶者、未婚子女に国籍取得機会を与えるようにした。これまでは国内の配偶者または直系尊卑属と結縁を望む場合だけ許容されていた。

(2)政府樹立以前に移住した中国同胞一世の故国訪問を目的とする入国を全面許容した。

 すなわち、同胞一世であることを立証できる書類(在籍謄本等)を提出すれば、国内招請者がいなくても現地大使館で入国査証を受けられるようにした。また、親戚訪問対象者を55歳以上の中国同胞から50歳以上に拡大して訪問親族の範囲も六寸以内の血族から八寸以内に幅を拡げた。親戚訪問入国者は身元保証人がいる場合、1年間滞留できる訪問同居(F―1)資格を付与して、一定要件を揃えれば部分的な就業も可能にした。

(3)就業機会の拡大及び不法滞留者に対する配慮として外国人産業研修生のなかで15%程度を占める中国同胞の比率を20%まで拡大配分し、2000年4月から国家技術資格試験に合格した研修生に対して内国人の同じ水準の所得が保障される研修就業(E―8)資格を付与するようにした。

 不法滞留者に対して特別自主出国申告期間を設定、自主出国時の犯則金を免除して再入国規制を緩和する一方、自主申告した雇用主は処罰を免除する。


◆選挙権の付与◆

□■90日以上の居住が条件■□
独立運動・経済貢献など国家への寄与度考慮

二、在外国民に対する選挙権と関連した論争


***** 検討 *****

1、在外同胞法政府案内容

 在外同胞法の政府提出案は在外国民が90日以上国内に居住すれば、居住当時の国内で実施する各種公職選挙に参与できるようにした。現行の「公職選挙および選挙不正防止法」の規定上、住民登録を根拠に作成される選挙人名簿に登載されてこそ選挙が可能だが、在外国民は住民登録がなくて選挙に参与できない。

 居住要件を90日に定めた理由は、これを過度に長期にすると、該当者がほとんど存在せず、在外国民に選挙参与を許容する立法趣旨を生かすことができなくなる。過度に短期にすると、選挙に差し迫って集団入国して選挙に参与できるようになる。このため問題が発生するので出入国管理法上の長期滞留基準である90日に定めた。

 参考に法律案提出当時の20歳以上の在外国民国内滞留現況資料によれば、30日以上の滞留者は三万五千百六十八人、90日以上の滞留者は二万七千三十七人、1年以上の滞留者は9921人となっている。

 政府案では在外国民の海外不在者投票は認めていないが、これを許容する場合、同胞社会が政治的に分裂される可能性があり、また外国で行われる選挙運動の違法行為を防止するには多くの費用が必要で、短期間の選挙期間の投票用紙の発送及び回収が現実的に不可能だという理由に従った。

 一方、外国現地での投票参与制限が違憲であるという在日同胞の主張に対して99年1月29日、憲法裁判所は居住要件に伴う選挙権制限は違憲でないと判示しながら北韓系の選挙参与憂慮、選挙公正性の確保困難、選挙期間内の投票用紙回収困難、兵役及び納税義務未履行を理由としたが、これは居住要件を置く在外同胞法の趣旨に符合する決定と言える。

 国会は法案審議過程で法司委の法案審査小委員会一次審議時には居住要件を120日に延長しようとしたが、法司委で反対意見があり、再度小委に回附して審議した。その結果、これを削除し、法司委と本会議でも選挙関連条項が削除されたまま通過した。国会で選挙権条項が削除されたことは在外国民に対する参政権認定の必要性自体に対する疑問が一部提起され、在外国民が選挙時期に多数が入国して選挙に参与する場合、選挙結果に影響を与える恐れがあるという意見と在外国民に対する公職選挙権の認定が在日同胞の日本での地方参政権取得に障害となるという意見が反映された結果とみる。


2、在外国民に対する選挙権付与の妥当性

 在外国民は兵役と納税義務を履行しないので参政権を与えることは不当だと批判があるが、憲法は全ての国民に対して選挙権を認めている。そのため在外国民にも選挙参与の機会を付与することが当然で、現実的に国内長期滞留の在外国民に対して選挙権行使を制限する名分も必要性もない。

 納税義務は所得または財産がある場合、賦課されることで在外国民も国内での所得または国内財産に対しは納税義務を負担しており、住民税までも所得割によって負担している。また在外国民は兵役義務を免除しているのではなく兵役法により免除されるだけで、1年以上国内に滞留する場合には兵役義務を負担するようになる。内国民の場合、兵役や納税義務を履行しなかったとしても選挙権が剥奪されないことと衡平性を考慮する必要がある。

 自らの国家に対する寄与度は兵役や納税等の基本的義務だけで評価できないし、在外同胞の独立運動、民主化闘争、経済発展寄与、経済難局克服のための国内送金等、他の形態による国家に対する寄与度も考慮されなければならない。

 90日以上の国内継続居住者に限る場合、実際に選挙に参与できる在外国民は二万七千余人にしか存在せず、在外国民を我が国民の一員として待遇するという象徴的な意味が大きいはずで、これは在外国民らの長い間の宿願の一つだ。


◆民団の地方参政権との関連◆

□■「二重参政権」発生せず■□
民団の運動に否定的影響なし


3、在日同胞の地方参政権獲得に否定的な影響を及ぼす可能性検討

 在日の民団では在外国民の選挙権は憲法上保障された権利であるから法律で新たに規定する必要がないだけでなく、むしろ在日韓国人の日本での地方参政権獲得運動に障害になるため、法律でなく施行細則で規定してほしいと要望しただけで、在外国民の参政権が不必要だという意味ではなかった。

 民団では在外国民の選挙権が憲法上保障されているという理由で現行法律でも在外国民が選挙権を行使できるという前提で、憲法上の権利も法律で手続きが規定されていないために行使できないだけで、現行法上の選挙人名簿は住民登録を基準に作成されるのでこれを補完する法律がなければ在外国民は選挙権を行使できない。

 また、在外同胞法上の在外国民の選挙権は90日以上国内に居住する場合、その居住当時実施される選挙に参与できることであり、日本での地方参政権が許容されても同時期に実施される選挙に二重に選挙権を行使できないようになっているため二重参政権の問題は発生しない。

 このような憂慮を払拭させるために法務部では該当条項に「但し、居住国で大統領、国会議員、地方自治体の長または地方議会議員などを選出する選挙の全部または一部に参与することが保障された在外国民は除外する。」という但書条項を挿入する修正案を提示したが採択されなかった。参考に日本は98年5月に在外国民が外国でも選挙に参与できるように選挙法を改正した。


4、在外国民の選挙参与を悪用する可能性検討

 在外国民を意図的に大量入国させて特定人を支持する場合、選挙の当落が変わることもあるのでこれを防止する目的で90日の居住要件を置いた。

 在外国民が選挙に参与する為には国内居所申告をしたのち、選挙人名簿作成基準日現在、90日以上国内に継続して居住しなければならないので、大統領選挙の場合、選挙人名簿作成基準日は選挙日から28日前であるから事実上118日間国内に居住しなければならない。

 この場合、往復航空料と118日間の宿泊費を負担しなければならなくなり、一票を得るためにこのような多くの費用を負担する候補者はないものと予想されるだけでなく、このような違法行為は出入国照会及び居所事実照会で他の違法行為より容易に捜査対象になる。


■おわりに

 法務部では在日韓国人の法的地位問題を始めとする海外同胞の法的支援事業を長い期間進行してきた。87年から法務部の検事を在外同胞多数居住地域に派遣し、海外同胞法律相談を実施してきたし、現在ではファックスとインターネット、電子メールを通じた法律相談を実施している。このような法律相談の過程で在外同胞らに適用される出入国制度や国内法の問題点に対する生きた体験を直接聞くことができ、この時に収集した在外同胞らの法的隘路事項とその解消方案に対する研究資料が土台になって在外同胞法が誕生した。

 法務部で用意した「在外同胞法」は一部不十分な部分もあるが、在外同胞を直接対象とする建国以来、最初の法律として在外同胞政策において画期的な前進として記録されるはずで、今後の僑民政策の重要な転換点となることと期待する。

 前韓国法務部国際法務課検事、現全州地方検察庁南原支庁長検事:鄭然洙

(訳文責・民団中央本部民生局)

(1999.12.15 民団新聞)



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