掲載日 : [2017-07-12] 照会数 : 6466
訪ねてみたい韓国の駅<7>釜山−金海軽電鉄 首露王陵
[ コンパクトな首露王陵駅。駅番号や漢字表記もあるので利用しやすい ] [ 2000年の時を超えて今も眠る首露王陵。直径22m、高さ6mの円墳だ ]
伽耶遺跡を手軽に訪ねる
仁川空港に空港鉄道AREXがあるように、釜山の金海国際空港にもアクセス鉄道がある。それが、2011年9月に開業した釜山‐金海軽電鉄だ。「ゆりかもめ」のような無人運転の新交通システムで、渋滞が多い大都市周辺の輸送を担う、新しい交通機関である。ある年の8月、軽電鉄に乗って、ふらりと旅に出た。
洛東江の広大な平野
釜山‐金海軽電鉄は、釜山市の中心部へは乗り入れていないので、空港アクセス鉄道としては今ひとつ使いづらい。だが、実際に乗ってみると、なかなか気持ちよい路線だ。
洛東江河口部の三角州上を南北に走り、のどかな車窓風景を楽しめる。特に、空港駅から2つめの登亀〜大渚間は、水田地帯の真ん中を一直線に北へ進み、洛東江が創り上げた広大な平野をたっぷりと見られる。無人運転なので、先頭部に立って前方の景色を楽しむ「かぶりつき」が出来るのも楽しい。
電車は、慶尚南道金海市に入った。標高630メートルの神魚山の麓に広がる扇状地に、住宅やビルが並んでいる。南を西洛東江が流れ、典型的な「背山臨水」の地形だ。
金海空港から25分、無隻山麓の谷に入ったところで、首露王陵(スロワンヌン)駅に到着。ヘバン川沿いにある高架駅で、川沿いには遊歩道や、自由に使えるトレーニングマシンが整備されている。
首露王陵は、西暦42年に金官伽耶を建国したと伝わる首露王の陵墓。金官伽耶は、高句麗、百済、新羅と並ぶもうひとつの有力国家だ。鉄の製造が盛んで、日本との交易も行われていたと言われる。陵墓は閑静な住宅地にあり、落ち着いた雰囲気でかつて栄えた伽耶国を偲ぶことができる。
筆者は、07年にも首露王陵を訪れたことがある。当時は軽電鉄が開業する前で、釜山のバスターミナルから延々と市外バスに揺られてたどり着いたものだ。今では、空港から迷うことなく30分ほどで気軽に訪れることができるのだから、便利になったものである。南浦洞あたりの港町とは違った雰囲気があり、街の多彩な表情を味わうことができる。
近くに大成洞古墳群
この辺りは、あちこちに伽耶の遺跡が眠っているようだ。首露王陵のすぐ近くには大成洞(デソンドン)古墳群があり、遊歩道が整備されている。周囲には高層アパートが建ち並び、いにしえの歴史と、21世紀の都市が同居している光景が興味深い。
「日本からわざわざ来てくださったんですか。ありがとうございます。金海は慶州と同じくらい歴史がある街です。どうぞゆっくり散策してください」
立ち寄った観光案内所の女性係員が、笑顔で語った。軽電鉄の開業以来、金海を訪れる人も少しずつ増えているそうだ。
大成洞古墳群の先には、伽耶の遺物を収蔵する国立金海博物館がある。伽耶の兵士が使ったという鉄製の鎧や、国宝に指定された金冠は見事だ。国立博物館なので、無料で見学できるのが嬉しい。
博物館を出て、軽電鉄の駅に戻ろうとすると、目の前に博物館駅があることに気付いた。ここから電車に乗れば、釜山の中心である西面までは乗り換え1回で約1時間。誰でも手軽に楽しめる、ショートトリップだ。
栗原景(フォトライター)
(2017.7.12 民団新聞)