掲載日 : [2016-11-16] 照会数 : 4255
サラム賛歌<18>韓日史を学ぶ勇気に拍手

高麗博物館訪れた
2人の中学生
東京新大久保にある高麗博物館で開催中の「侵略に抗う不屈の朝鮮女性たち」展に出かけた。韓国の詩人李潤玉さん(「サラム賛歌」第6回で紹介済み)が書いた詩に、画家の李茂盛さんが絵を付けた「詩画展」だ。
30点の詩と絵には、それぞれ日本語の解説が付いており、日本の侵略に立ち向かって戦った女性たちの姿が、生々しくよみがえってくる。
その会場で、二人の中学生と出会った。中学2年生のA君とB君だ。二人が高麗博物館を訪ねたのはその日が3度目だという。初めて来たときには、朝鮮人の原爆被害についての展示が行われていた。
二人は「在日外国人について考える」という社会科の授業の中で、在日コリアンの歴史について知りたいと思うようになった。そのきっかけは、以前、フィールドワークで訪れた大久保界隈の様子だった。韓国の店がたくさんあることを知り、在日コリアンの存在についても知ったと言う。
博物館の片隅で原田京子理事長が、古代から続く日本と朝鮮の歴史についての資料を二人に手渡し、解説していた。原田さんは以前、中学の社会科の先生を務めた人だ。
「正倉院は知ってるでしょう。そこには朝鮮から渡ってきた、たくさんの宝物が保管されているのよ」
二人に、高麗博物館で学んだ感想を尋ねてみた。
「日本は昔、朝鮮からたくさんのことを教えてもらっていました。しかしやがて朝鮮と戦争をするようになって(壬辰倭乱)、そして朝鮮を侵略してしまったという歴史について、学ぶことができました」という答えが返ってきた。
歴史の流れを把握して、自らの暮らしの中の問題へとつなげてゆく視点を育む教育。なんと貴重な学びだろうか。
日本と朝鮮半島の歴史について、知らずにすませてしまう人が多い中、「知りたい」と思う気持ちで行動する二人の中学生が、私にはとてもまぶしく見えた。この子たちこそ未来への希望だと、心が明るくなってくる。
この子たちの周りには、たくさんの大人がいる。子どもの目を広げようと指導する、社会科の先生。「知りたい」という希望に応えてあげることのできる、社会の先輩たち。
一方で日本には、その学びを妨げようとする大人たちがいることも知った。本紙に中学生の氏名や顔写真が掲載されて、攻撃の対象となったらいけないという意見が出た。それが今の日本の現実なのかと、暗澹たる思いだ。
隣人と仲良くしてこそ、自らの平穏も保たれる。日本の外で長く暮らす私は、それを身に染みて知っている。隣人を排斥することは、自らの首を絞めるも同然の行為だ。ナショナリズムは孤立主義につながり、やがて破滅の道へと通じる。
美談として紹介したいところだが、善意の若者を苦しめるようなことだけは避けたいと、苦々しい思いで二人の中学生の名を伏せた。こんな社会を築いてしまった大人の一人として、恥じ入るばかりだ。
どうか許してほしい。そして信じてほしい。君たちの行動こそ、未来の平和への礎なのだと。私は君たちの学びの勇気に、大きな拍手を送る。
戸田郁子(作家)
(2016.11.16 民団新聞)