掲載日 : [2016-12-07] 照会数 : 5047
50人の証言が映し出す日本社会…ライフヒストリー『在日二世の記憶』
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集英社新書から発刊
『在日2世の記憶』が集英社新書として11月22日に刊行された。ライター10人が手分けして当事者50人からライフヒストリーを聞き出した証言集だ。08年に発行された『在日一世の記憶』の続編にあたる。
登場するのは元プロ野球選手、哲学者、実業家、医師、社会運動家、ミュージシャン、僧侶、伝統工芸職人、格闘家、劇団員、マジシャン、映画人など。年齢は49〜84歳と幅広い。
それぞれ言語環境、教育、親子、きょうだい、将来の夢、仕事、結婚、国籍、アイデンティティー、祖国、次世代の在日の子どもたちへ、そして日本社会へといった共通の質問を投げかけている。
3000本以上のヒットを量産した元プロ野球選手、張勲氏(76)は高校時代、在日差別を受けて一時、公式戦に出られなかったことがある。自暴自棄になりかけたとき、在日の高校球児チームが韓国遠征へ。張氏も民団に誘われて参加した。韓国国内の歓迎ぶりに「自分はこの民族で良かったなと思いました」と述懐している。
実業家の姜期東氏(79)はアートネイチャーに就職して福岡で一生懸命働き、最後は会長職まで上り詰めた立志伝中の人物だ。偽名で入社したため、最初は国籍は問題にならなかった。やがて社内に知られるようになったころには会社の役員になっていたため、その地位は安泰だった。会社を辞めた03年には従業員2000人、年間売上が200億を超していたという。
同じく実業家の邊龍雄さん(68)は、「盛岡冷麺」という独自の看板メニューを地元岩手県から全国に広めた。現在は東京、神奈川、埼玉、宮城などでも店舗展開している。
邊さんは韓国でいろんな種類の冷麺を食べ歩き、自分が追究する冷麺を探し求めた。その味は盛岡にあった。咸興のピビン冷麺をもとにトンチミ(大根の水キムチ)の付け汁を加えたもので、在日1世が故郷の味を大事にしながら、日本人の嗜好にもあうように改良を加えてきた味だった。
ここには韓国と日本の文化がうまく調和していた。邊さんは開店2年目から名称を「冷麺」から「盛岡冷麺」と変えた。
編集にたずさわった一人、慶応大学教授で歴史社会学者の小熊英二さんは、「ここに収められている2世の経験は日本社会の鏡。彼らの経験を通して逆に日本の社会が見えてくることが、私には興味深かった」と話している。
定価1600円+税。問い合わせは、東京の集英社(03・3230・6393)。
(2016.12.7 民団新聞)