掲載日 : [2016-10-12] 照会数 : 7785
<ヘイト判決>大阪地域「人種差別的発言」と認定…在特会側に賠償命令

同胞が歓迎談話
【大阪】インターネット上の動画中継やSNS、さらには街宣で民族差別発言を受け、精神的打撃を受けたとして在日同胞の李信恵さん(45、東大阪市)が「在日特権を許さない市民の会」(在特会)と桜井誠・前会長に計550万円の損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁は9月27日、在特会側に77万円の支払いを命じた。原告側弁護士によれば、ヘイトスピーチについて、個人が訴えた裁判で、差別だと認められたのは初めてだという。裁判の行方を見守ってきた在日同胞は「価値ある勝利」と原告の勇気ある行動を称えている。
判決で増森珠美裁判長は、被告・桜井氏が原告を「朝鮮ババア」や「差別の当たり屋」などという侮辱的な表現で繰り返し、かつ執拗に揶揄した行為を「社会通念上許される限度を超える侮辱行為で、悪質」と指摘した。
さらに、在特会会長当時の桜井氏の一連の発言は「在日朝鮮人への差別を助長、増幅させる意図で行われた」と指摘したうえで「ただの悪口ではない。人種差別撤廃条約の趣旨に反する差別発言だ」と結論づけ、慰謝料算定において考慮すべきとした。
なお、「互いに批判し合う表現者どうしの言論のやり取りで、賠償すべき発言ではない」とした桜井氏の主張はすべて却下した。
慰謝料額に疑問
金喜朝弁護士(法曹フォーラム副会長)は、「裁判所が被告の発言を名誉毀損・侮辱と断じ、慰謝料請求を認めたことは、新たな判例を積み上げるもの」として一定の評価をしている。同じく殷勇基弁護士も「京都朝鮮学校襲撃事件、徳島県教組襲撃事件での判決に引き続く判決だ。判決は人種差別撤廃条約を引用しており、同条約の活用もますます定着してきたといえる」と歓迎した。
ただし、両弁護士とも低額な慰謝料には疑問符を付けた。張界満弁護士は、「裁判官にはヘイトを絶対に許さない気概を金額でも明確にしてもらいたかった」と残念そう。
人権擁護委員会の李根委員長は「大きな勝利」と受け止めている。一方で「1日も早い人種差別撤廃基本法の制定をめざさなければ」と語った。同じく薛幸夫副委員長は「愚昧な在特会に対抗し、『私も朝鮮人だ』と私が立つ。日本人自身が『私も朝鮮人だ』と叫び、立ち上がるまではわれわれの前進への歩みを止めてはならない」と怒りを押し殺しながら語った。
条例化に追い風
呉時宗さん(民団大阪・堺支部在日総合委員長)は今回の判決について、「(不当な差別的言動は許されないとした)国の対策法は理念法であるが、実質的にヘイトスピーチ禁止をめざした司法の判断がなされた。自治体に禁止条例を迫っていくうえで追い風になる」と意を強くしている。
抑制効果に期待
青年会中央本部の朴裕植会長は、「日本の司法が当該団体を人種差別団体であると認定し、勝訴したことで、一つのモラルが生まれるのではないか」とこれからの社会変化に期待をかけている。確かに、これからはヘイトスピーチで差別的な表現をすると賠償を請求され、お金を払うことになるという意味で一定の抑制効果はありそうだ。
(寄稿)
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「ささやかでも大切な勝利」
踏み込んだ判決高裁判断に期待
原告の李信恵さん
今回の判決は支えて下さったみんなのおかげで迎えることができた。在日はもちろん、それ以上に日本人の友人がずっと一緒にいてくれた。ほんとうに勝ててうれしい。
京都朝鮮学校襲撃事件、徳島県教組襲撃事件に続いて人種差別撤廃条約が引用され、民族差別も認められた。これまでの流れに続いた判決が出たことで、安心した。ネット上で発せられたヘイトスピーチも歴然とした差別であるということが裁判で認定された。
相手方の主張が全面的に退けられたこと、自分の発言が「原告の上記発言は、被告らによる在日朝鮮人に対する排斥活動がいわゆるヘイトスピーチ等として社会問題となっていることに関する意見ないし論評であって、公共の利害に関する事実にかかり、かつ、その目的がもっぱら公益を図る目的にあったと認められる上、その表現内容が人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評の範囲を逸脱するとは言えないから、いわゆる公正な論評として違法性が阻却される」とされたことも胸が熱くなった。
しかし、女性差別であり、複合差別であることが判決で触れられていなかったのは残念に思う。ネット上でヘイトスピーチが行われた場合の被害の重大性について考慮がなかったことも物足りない。
高裁判決ではもう一歩踏み込んだ判決を願う。在日が権利を勝ち取るために、先人たちが闘ってきたことに比べれば自分の裁判は、ほんのささやかな勝利だ。でも、みんなの思いを受けた、大切な勝利。これからもこんな小さな、でも大切な勝利を重ねていきたい。今回の判決が差別のない社会への、輝くかけらになればと思う。
(2016.10.12 民団新聞)