掲載日 : [2016-01-27] 照会数 : 6763
ヘイトS抑止効果期待…大阪市で全国初の条例制定
[ ヘイトスピーチ根絶に向け、大阪市での条例制定後などについて協議した18日の人権擁護委員会全体会議 ]
ヘイトスピーチ(憎悪表現)の抑止策をまとめた全国初の条例が15日、大阪市議会で成立した。各地方議会が国に法規制などを求める中、在日韓国人が多い大阪市は独自制度を導入した。ヘイトスピーチの根絶に向け規制する法律の制定を求めてきた民団では、今回の条例制定を評価、呉公太中央本部団長は16日に発表した談話で「われわれはヘイトスピーチ条例を制定する地方自治体が今後一つでも多く出てくることを期待している」と表明。同時に「ヘイトスピーチ・ヘイトクライムが一日も早く根絶されるよう、引き続き積極的な運動をねばり強く推進していく」と強調した。
早期法制化へ拍車を…民団
大阪維新の会や公明、共産両党などの賛成多数で可決、成立した大阪市の条例には市民団体などが求めた表現規制や罰則規定はないが、ヘイトスピーチの定義を国内法令で初めて具体的に明記。ヘイトスピーチを行った個人や団体の名前を公表することなどを骨子としている。半年程度の周知期間を経て施行する。
条例では、特定の人種や民族の個人・団体の1,社会排除2,権利の制限3,憎悪や差別意識をあおることのいずれかを目的とし、人を中傷したり身の危険を感じさせたりする表現活動をヘイトスピーチと定義した。これらを記録したDVDの販売や上映、インターネット動画サイトへの投稿など拡散行為も含むと定めた。
市内に通勤・通学する人や市民の被害申告を受け、弁護士や法学者で構成する市の「ヘイトスピーチ審査会」が内容を調査。市長がヘイトスピーチと判断すれば、その内容や実施した個人・団体名を市のホームページなどで公表する。ネットに掲載されている動画などはプロバイダーなどに削除を要請する。
条例案には当初、市が被害者に訴訟費用を貸し付ける規定も盛り込まれていたが、「不公平だ」とする議会の意見を受けて市が削除。審査会の中立性を保つために、委員の選任にあたっては「議会同意が必要」と改めた。
民団大阪本部は、条例の成立に向けて大阪維新の会、自民、公明、共産の4党に働きかけた。
呉民団中央団長は談話で、「大阪市議会の英断」を高く評価。「ヘイトスピーチは言葉の暴力であり、迫害だ。個人の尊厳を傷つけ、差別意識を助長する恐れがあるため、私たちは規制する法律の制定を求めさまざまな運動を展開してきた」とし、「規制関連法案は昨年、参議院法務委員会で審議入りしたが、継続審議となり、本年度通常国会での動向が内外から注視されている」と指摘した。
さらに、「大阪市の条例は地域におけるヘイトスピーチの抑制はもちろん、国会における立法化促進にもつながると考えられる」と期待を表明し、規制法の早期実現に向け、各地自治体・議会がヘイトスピーチに反対する意見書を採択するよう要望運動を強化することを明らかにした。
なお、ヘイトスピーチなどについての法整備を国に求める地方議会の意見書採択は昨年12月末現在、264件(法務省統計)に達した。
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人権擁護委 各地で要望活動を強化
民団中央執行委員会の専門委員会、第53期人権擁護委員会(李根委員長)は18日、東京・港区の韓国中央会館で今期最終となる第6回全体会議を開き、ヘイトスピーチの根絶に向け、大阪市が可決した条例について検討した。
弁護士の委員は、「参議院で人種差別撤廃施策推進法が審議されようとしているこのタイミングで大阪市の条例が出た意義は大きい」と評価。ほかの委員からも、大阪市から他都市へ議論を加速させようとの声が上がった。
行政書士の委員が具体的な条例のなかでも「ヘイトスピーチ拡散防止の措置および認識などの公表」に着目したのに対し、弁護士の委員も同調。「この条例を使ってやれることはやれる。直接の規制はできないが、名前が出れば抑止効果は期待できる」と述べた。まずはオリンピック・パラリンピックを控えた東京都をはじめとする主要都市への具体的な働きかけが重要になるとの認識で一致した。
委員会には民主党の有田芳生参議院議員も加わり、人種差別撤廃施策推進法案と与党の動きについて意見を交換した。
(2016.1.27 民団新聞)