掲載日 : [2016-03-16] 照会数 : 4039
<布帳馬車>平和のとりでを築く歩み
2年に一度ソウルから東京を目指す朝鮮通信使ウオークのメンバーらが、鍛錬の一環として月に一度、東京の山手線一周コース約40キロを歩いている。
30数人の男女比はほぼ半々だが、平均年齢は70歳に近い。朝8時に出発して、夕方6時頃に戻るのだが、快脚ぶりにほれぼれする。縁あって在日2世の私も参加するようになった。
約10時間も連れだって歩くと、初対面の人とも自然によもやま話が始まる。韓国通が多いが、ふだんから在日韓国人とつきあっているわけでもなく、素朴な疑問をぶつけてくる。先月は正月の過ごし方の違いを聞かれた。「韓国への里帰りは」と問われることもよくあるが、「生まれ故郷が日本で、親もこちらに住んでいる。韓国に帰るという感覚よりも、日本が育ての親という感じですね」と答えると、在日韓国人は日本に生活基盤があるという当たり前のことに合点がいくようだ。
先日、無理矢理ウオークにつきあわせた在日歴50年の本国出身の友人が、息を切らせて完歩をした後、しみじみと言った。「ただ一緒に歩いて、話をするだけで、つかの間の韓日交流・親善ができるんだなあ。来年の第6次ウオークには、韓国を一緒に歩こうと誘われたよ」と…。
その日、私たちが歩いた数時間後の銀座を、ヘイトスピーチデモがまたも繰り返されたと聞いた。憎悪を拡散するヘイトデモと、友情を育むウオーク。
「相互の風習と生活を知らないことは、人類の歴史を通じて疑惑と不信を起こした共通の原因であり、あまりにもしばしば戦争となった」と、ユネスコ憲章の前文は言う。ならばこそ、人の心の中に平和のとりでを築くために、共に歩みを続けたい。(C)
(2016.3.16 民団新聞)