掲載日 : [2016-04-20] 照会数 : 6301
「共生」政治へ転換できるか…「総選挙」本紙記者座談会
[ 仁川空港で事前投票する若い有権者(総選挙での事前投票は初めて) ]
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与党の公認紛糾
「民心」離れ 誘う…響いた大統領の対話不足
A 4・13総選挙の結果、第20代国会は今のところ、セヌリ党129(選挙での獲得議席数は122。その後、無所属から7人が復党)、共に民主党123、国民の党38、正義党6、野党系無所属4の構成となる。与党のセヌリ党は当初、与野党が対立する法案の可決は180人以上の賛成がなければならないとした国会先進化法の改定ラインである180議席獲得を目標にした。その後、公認をめぐる内紛への反発が広がると過半数の150に下方修正したが、これをも大きく割り込んだ。20代国会は16年ぶりの与小野大に加え、20年ぶりの3党体制になる。
B 増大する北韓の核脅威、経済不振の長期化という内憂外患をかかえ、来年12月の第19代大統領選挙に向けた動きが加速する。国政運営の先行きがいっそう見通しにくくなった。
C 公認をめぐる反発から離党議員が出たため総選挙には146議席で臨んだセヌリ党だが、それまでは152を有していた。過半数の与党が30議席も失って第一党の地位を明け渡したのは憲政史上でも初めてらしい。金武星党代表(14日辞任)は、「すべては、国民を恐れねばならない事実を忘れたセヌリ党自らが招いた」と語っている。
D 韓国メディアは与党の敗因について、朴槿恵大統領と党内の親朴大統領派(親朴派)の独善、傲慢にあったと一様に指摘した。保守系紙でも、朴大統領の「不通」(与野党や国民との意思疎通の不足)には手厳しかっただけに、「選挙弾劾」という言葉まで使って、民意は朴大統領を審判し変化を要求したと断じている。
B 保守的性向が強いとされ、投票率の高い60代以上の有権者が984万人と前回選挙より167万人増えて全有権者の23・4%を占めた。おまけに、最大野党は昨年末に分裂、共に民主党、国民の党となって野党票を食い合う展開になった。こうした絶対的に有利な条件を生かせなかったセヌリ党はまさに「好事魔多し」を体現したことになる。
C 朴大統領は昨年9月からの通常国会会期中に、与野党指導部に会ったのは2回だけだったのに、国会が機能不全に陥っているとの批判発言を20回以上も繰り返したとされる。選挙前日の12日にも「民生安定と経済活性化にまい進する新しい国会が誕生しなければならない」と国会審判論を展開した。これらが与党を有利にするための露骨な選挙介入と受けとめられたのは間違いない。
D それらがボディーブローだったとすれば、決定打は親朴派による非朴派に対する公認外しだ。そのなかには、大邱・慶尚北道の現職6人が含まれていた。セヌリ党と朴大統領の岩盤とも言うべき地域でも民心が離れ気味だった。地域別の投票率で大邱が最低だったのもそれと無関係ではなかろう。
レームダック回避思惑が完全に裏目
B 朴大統領からすれば、公共・労働・教育・金融の4大構造改革やサービス産業発展法など経済活性化法案を処理できない国会に苛立つほかなかった。加えて、総選挙が終わってしまえば政局は次期大統領選挙に向かって走り出す。5年1期限りの大統領制の宿命としてある任期後半のレ‐ムダック化を極力避けたいとの思いも強かったはずだ。そこから与党は最低でも過半数を維持し、しかも、自身に近い議員を増やして党中枢を占める決意を固めたように思える。
C それが完全と言っていいほど裏目に出た。朴大統領は明らかに民意を読み誤ったと言うほかない。朴氏は1998年の政界入り以来、保守政党の数々の危機を救い、選挙の女王とも呼ばれてきた。だが、大統領の選挙介入は法で禁止されている。リングの外で総選挙を迎えたのは初めてで、歯がゆさや焦りが国会審判論の繰り返しにつながったのではないか。
D そうであればこそ、時には国会に対する要望・注文を含む国政の方向についての考えを、自身の生の言葉で国民に語りかけ、双方向でやり取りすべきだった。そうしていれば、国民の耳も自ずと大きくなっていたはずだ。その手段として有効なのは、国民目線で質問するメディアとの記者会見だろう。だが、執権からこのかた、記者会見は3回だけだったという。
C 日本の首相のように一日に何度もぶら下がり取材を受けるわけにはいかない。だからこそ、間接的な国民対話ともなる記者会見を定例化してもよかった。歴代大統領のなかには内外記者との会見や懇談を好んだ人物もいる。金泳三氏がその典型だろう。
B 朴大統領は就任以来、新年辞や3・1節記念辞、8・15光復節慶祝辞、あるいは重要時局に際した談話、主要会議での発言を通じて国民向けのメッセージを発信してきた。だがそれらは、いずれも練りに練った硬質な言葉の連なりであるうえに、一方通行の域を出ない。朴大統領には与野党や国民との対話を密にして「不通」のイメージを早期に一新する努力が求められる。そのためにもまず、今回の選挙結果を踏まえて残余任期への覚悟を示す必要がある。
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なかった政策論争
北韓脅威よそに…経済危機対策も新味欠き
A 今回の総選挙で首をかしげざるを得なかったのは、政策論争がほとんどなかったことだ。主要政党は与野党にかかわりなく、雇用創出を最優先に福祉拡充・格差是正・公平社会実現などを10大政策に掲げた。その目標値とアプローチに違いがあるだけで差別化が容易ではなかった。しかも、ほとんどが前回(12年総選挙)の焼き直しだ。つまり、4年以上にわたって克服できない深刻な問題であったにもかかわらず争点化していない。
B そのためと言うべきか、そのかわりと言うべきか、バラ色の公約が乱発された。ある有力メディアの調査によれば、選挙区に出馬した候補935人のうち419人の掲げた公約をすべて履行した場合、1000兆ウォンを超える財源が必要になるとか。
C 経済不振の打開策が争われなかったこと以上に解せないのは、昨年末の従軍慰安婦問題をめぐる韓日合意、歴史教科書の国定化問題など理念葛藤の象徴とも言うべき対立事案も、増大する一方の北韓核脅威など眼前の安保危機も俎上に乗らなかった。
D 政策論争が不在だったのは、その余裕もないほど経済状況が悪いということの表れだ。有権者は経済に対する不満を安保や歴史認識の問題で紛らわせることを嫌った。ならば、経済政策で競い合わせるべきだが、そうならなかったのは、政策次元を突き破って政治構造の再構築しかないという切羽詰まった思いがあったからではないか。
B それは「静かな憤怒」と言えるだろう。とくに、若者たちの間でその傾向が目立った。統計庁によると、2月の失業率は4・9%だ。それが若年層(19〜29歳)では12・5%にハネ上がる。また、首都圏の広い地域で家賃がこの2年間に70%も上昇した。20〜30代の投票率が前回より10ポイント以上アップしたのもうなずける。しかも20代は選挙区投票で野党候補に入れたのが77%だったという。セヌリ党は首都圏の、地盤とされてきた選挙区でも相次いで敗退した。
C 経済不振については、経済活性化法案の処理で足を引っ張った野党にも責任がある。それにもかかわらず、野党は今回の総選挙でも期待に値する経済政策を打ち出せてはいない。IMF(国際通貨基金)は韓国の今年の成長率を2・9%から2・7%に、来年は3・2%から2・9%に下方修正した。生命線である輸出は15カ月連続で減少し、過去最長を更新しつつある。大企業の業績も軒並み落ち込んだ。こうしたなかでも野党は、大企業への規制強化による「経済民主化」ばかりを唱えている。
悲痛な庶民の叫び野党も応える責任
D 韓国ではいま親子起業がブームだという。就職先のない子どものために、親が退職金を投じて仕事場を確保しようとしている。老後を、就職を、家賃上昇を何とかしてくれという庶民の叫びに、本気で応えようとする姿がどの政党からも見えてこなかった。
B 経済苦境に陥った責任を大統領と与党に求めてきた野党が今度は多数派となった。責任追及よりも政策推進に力量を発揮しなければならなくなったと言える。今後15年間で69万件の雇用創出が見込まれるサービス産業発展法は、4年8カ月にわたって塩漬け状態で、9万人の雇用が生まれるという労働改革関連法も宙に浮いたままだ。これらを野党側の対案とすり合わせて通過させるだけでも局面は変わる。経済団体が総選挙当日に「仕事をする国会」「雇用をつくる国会」になってほしいと要望し、その前には民生を救う立法要求の1千万人署名運動本部が与野3党を訪れ、経済活性化法案の早期処理を訴えたことを軽く見るべきではない。
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交差投票くっきり
2大政党を牽制…「中道」第三党の出現促す
A 4・13総選挙後の韓国メディアは、選挙結果を肯定的に評価しつつ「共生政治」(今回は協力統治を縮めて「協治」という表現を多用している)の実現を訴えている。選挙の後遺症を癒して政治発展を促そうとする恒例のキャンペーンだ。毎回のご託宣だと軽んじてはならない。落胆や歓喜は選挙の付き物とはいえ、当初の予想を大きくくつがえす結果だっただけに与党と野党の心情的な開きは深刻だろう。落ち込みすぎても、有頂天になってもらっても困るのは国民だ。このようなときこそ、「共生」「協治」へと手を差し伸べ合ってほしい。
B 総選挙が近づくにつれ専門家やメディアの間では、2大政党の極端な対決政治に疲れた民心が両党の「覇権主義」に制動をかけるのではないかとの見通しが強まっていた。したがって、選挙区と比例代表で政党選択を別にする交差投票がかつてなく増えると展望した。全問正解ではないにしてもかなり的を射ていた。
C 共に民主党は選挙区で最多の当選者を出したので、2大政党に対する制動効果が同党にも働いたとは言いにくい。それでも、第三の党を盛り立てて2大政党を牽制させるうえで交差投票が重要な意味をもった。国民の党は比例の政党投票で、共に民主党の25・54%をわずかながらも上回る26・74%を獲得した。与党から距離を置いた層を含む野党支持者は、選挙区では共に民主党を、比例では国民の党を選択したことになる。
D 比例代表で第三の党が13議席をもぎ取ったのは初めてだ。これまでの最高は9議席だった。国民の党は選挙区で25人を当選させたが、光州・全北・全南地域で圧勝したほかは、全羅道出身者の多いソウルで2議席にとどまっている。湖南の地域政党でありながら、政党投票ではほとんどの地域で共に民主党の上位につけ、全国政党の面目を備えた意味は大きい。
B 第19代総選挙の比例でセヌリ党は42・8%、共に民主党の前身・民主統合党は36・45%だった。両党ともに10ポイントほど下がった。その分、国民の党に流れた勘定だ。一方、セヌリ党には野党2党より7ポイント近く多い33・5%の票を入れ、選挙区ほどにはダメージを与えなかったと言える。交差投票は保守(セヌリ党)・中道(国民の党)・進歩(共に民主党)の絶妙な3党体制を築いたということだ。
C 「共生」「協治」の政治に向かうかどうか、まずは国民の党を飛躍させ、次期大統領候補としても足場を固めた安哲秀代表のスタンスにかかっている。前向きにキャスティングボードを握るのか、かく乱するだけなのか、あるいはどっちつかずに終始するのか、耳目が集中するだろう。
D 議院内閣制をとる先進国のなかには、中道の第三党が政局に応じて保守または進歩と連立を組み、政治の安定と漸進的な発展に貢献する例は少なからずある。だが、韓国は強力な権限が付与された大統領制であり、安代表自らが大統領候補として再び脚光を浴びる存在だ。逆に言えばそれは、常に足元をすくわれかねない立場でもある。まさに綱渡りだが、バランス感覚と政治力量を発揮して国と国民の苦境打開に貢献すれば株はいっそう上がることになる。 B 共に民主党の中核人士は理想主義的な要素の濃かった盧武鉉元大統領の系列だが、国民の党の中核人士は現実主義的といわれた金大中元大統領の系統を自負している。安代表自身も中道性向であるうえに安保問題では保守に近い。韓国の憲政史上での第三党は潰えやすいという印象があるが、踏ん張りに期待したい。
危機に強い大統領、今後の出方に注目
C 第20代国会の任期は20年5月までで、次期大統領の任期は18年から23年2月までとなる。新大統領がどの政党を基盤にしても、一方的に国政を運営することはできない議席配分であり、現大統領はもちろん次期大統領も「共生」「協治」を避けては通りにくい。
A 朴大統領はどう出るのか。盧武鉉大統領に対する弾劾騒動後の第17代総選挙(04年)では与党ヨルリンウリ党が議席を3倍強も伸ばしたのに対し、野党ハンナラ党(セヌリ党の前身)は逆風を受け16減の121議席になった。ハンナラ党の党首となった朴槿恵氏は直ちに、ウリ党の鄭東泳議長と会い、「新しい政治と経済発展のための協約」を結んで民生・経済優先、腐敗政治からの決別、国会中心の法理に則った議会主義政治の具現という3原則を確認し、主要政策面でも意見を接近させた。大統領と野党代表の立場の違いがあるとはいえ、真の危機にこそ本領を見せる朴槿恵氏の政治力量の見せ所だ。
(2016.4.20 民団新聞)