掲載日 : [2016-04-20] 照会数 : 7308
与党案「実効性欠く」…ヘイトスピーチ根絶へ同胞の声
自民・公明両党が8日、ヘイトスピーチ対策法案を参議院に提出した。在日同胞からは、「不当な差別的言動は許されない」とヘイトスピーチの害悪を認めたことは歓迎する一方、「実効性が薄い」と内容を危惧する声も出ている。ヘイトスピーチの禁止規定を盛り込んだ人種差別撤廃施策推進法を国会に提出している民進党の有田芳生参議院議員は「与党案を基本に全会一致での成立を模索」しており、与野党修正協議が今後の焦点となる。
必ず禁止条項を
運動継続呼びかけ
野党案が人種や民族を理由とする差別的言動を「してはならない」と禁止を明記したのに対し、与党案は「不当な差別的言動は許されない」としたにとどまっている。
与党案は差別的言動を解消するための相談体制の整備や教育・啓発活動の充実は国や自治体に求めた。ヘイトスピーチ自体の禁止規定や財政措置は盛り込まれていない。一方、野党案は財政措置を講じ、実態調査のため内閣府に審議会を設置するとしていた。
趙學植弁護士(35、東京)は、「現時点での与党法案はすでに法務省が取り組んでいる啓発活動・相談事業をなぞるだけのようで、あまり実効性を期待できない。法令だけでは不十分だからこそ人権教育・啓発活動は重要なのであり、『現行法では対処しえない』解決すべき問題がある限り、今後も立法の必要性はあり続ける」として、与野党による適切な修正に期待を寄せている。
大阪で反ヘイトの闘いに取り組んでいる文公輝さん(47、NPO法人多民族共生人権教育センター理事・事務局次長)は、「罰則のない理念法なら、民事訴訟による救済手段となりうる禁止条項を設けるべきだ」と強調する。ヘイトスピーチの定義についても「オーバーステイの外国人へのヘイトを容認すると誤解されかねない」と問題提起。「修正協議で人種差別撤廃条約などに則した内容に改めること」を期待している。
ヘイトスピーチ被害にあい、裁判に訴えている李信恵さん(44、大阪)も、与党案に罰則がないことを危惧して次のように語った。
「日本以外の国または地域の出身者で適法に居住するものを排除することを扇動する不当な差別的言動」の「適法に居住する」が「難民などの排除につながらないか」、「日本以外の国または地域の出身者」では「アイヌ民族やLGBT(性的少数者を限定的に指す言葉)、部落差別や沖縄差別などは含まれないことなども問題だと思う」と述べた。
殷勇基弁護士も「与党法案には『骨抜き』の印象も強い」という。特に「『人種差別』という用語を捨て、『適法に居住する本邦外出身者に対する差別的言動』に矮小化しているのは問題が大きい」と指摘する。
さらに、「この法案が成立してもヘイトデモやヘイト集会を直ちに止めさせることはできない」とし、「あくまでも第一歩にすぎない法律で、今後も継続した運動が必要だ」と呼びかけている。
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与野 修正協議入り
民進党の有田芳生参議院議員は15日、与党との修正協議で禁止条項を本則に盛り込むよう主張していく考えを明らかにした。現行の与党案でもヘイトスピーチはだめだと前文でうたっており、「本則に入れられない理由とはならない」と話している。
ヘイトスピーチの定義についても、「いまの法案では実効性に著しく欠ける。現実にのっとったものにすることは最低限必要」と語った。
有田議員は「民団をはじめとする当事者の方々の判断、評価は重い。この判断と民進党参議院執行部の判断は一致している。このままでいいとはいかないとほぼなった」と強調した。
ただし、与野党の案に距離がありすぎるのも事実。有田議員は「与党案をどれほどいいものに修正できるか。与党の政治的判断にかかかっている。場合によっては6月1日の会期末までかかるかもしれない」と見通している。修正協議は今週から始まった。
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与党提出の「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案」の主旨
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ヘイトスピーチを「日本以外の国または地域の出身者で適法に居住する者を、排除することを扇動する不当な差別的言動」と定義。前文で「このような不当な差別的言動は許されないことを宣言」し、「不当な差別的言動の解消に向けた取組を推進」するとした努力義務を課した。
具体的には国と地方公共団体で教育や啓発活動を実施。公共団体には差別的言動に対する相談に応じ、必要な体制を整備するよう求めている。
(2016.4.20 民団新聞)