掲載日 : [2016-04-27] 照会数 : 4709
与野党「仕事する国会」へ前向きだが…
[ 立候補者の所信表明に耳を傾ける有権者たち(「4・13」総選挙) ]
第19代国会の締めくくりとなる臨時国会が21日、5月20日までの会期で始まった。法案可決率が過去最低で「最悪の国会」とまで言われてきただけに、店ざらしの民生・経済関連の重要法案を処理して名誉を挽回できるのか、国民の関心はきわめて高い。臨時国会はまた、4・13総選挙によって与小野大の3党体制となった第20代国会を占う場としても注目されている。与野3党はいま、どのような動きを見せているのか。
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「旧政権」追及発言
「革命軍のつもりか」…民主・経済第一を忘れるな
4・13総選挙の結果は、惨敗した与党セヌリ党はもちろん、大躍進した野党(共に民主党、国民の党)にとっても予想外だった。2野党は勝利に歓喜しつつも国民が示した期待の大きさを真摯に受けとめ、多数派となった野党の重責を痛感しているように見える。「理念対立から脱し、民生・経済のために仕事をする国会にしよう」が合言葉になっているほどだ。
韓国メディアは、選挙結果を分析しては有権者の意思を肯定的に評価し、「共生」・「協治」の政治への転換を訴えては選挙の後遺症を癒そうとする。そして勝者はそれに同調する姿勢を示す。これはいわば、総選挙の余韻が消えるまでの恒例行事であり、通過儀礼と言えなくもない。
中道政治に国民の期待
しかし、今回はやや事情が異なる。中道性向の安哲秀氏を共同代表とする国民の党が第三の党として地歩を固め、12年の18代大統領選挙(大統領選挙は以下、大選)で若者の支持を得て有力候補に名を連ねた安氏自身が再び最有力候補に浮上した。当選の見込みがある大選候補を担ぐ政党は結束しやすい強みがある。それだけに、同党が仲立ちする「共生」・「協治」への期待はいつになく高い。
ところが、そんな期待を一気に吹き飛ばしかねない《爆弾発言》がこともあろうに、その国民の党から飛び出した。安氏とともに共同代表を務める千正培氏が18日、党の最高委員会で「真実を糾明する聴聞会、国政調査などすべての議会権力を動員し、旧政権8年の積弊を断固打破しなければならない」と吠えたのがそれだ。
千共同代表の言う「旧政権8年」とは、李明博大統領の5年と朴槿恵大統領の3年を指す。「積弊」としてあげたのは、セウォル号沈没事件、テロ防止法、歴史教科書国定化、開城工団閉鎖、人事・予算の地域差別などだ。現大統領の執権期間をも「旧政権」とは、著しく穏当を欠く。
共に民主党のなかには、政府・与党に対するこうした《合法的な圧迫》に同調する動きもある。だが、同党の核心議員らは「聴聞会などは我われが主導してきたが、与党との駆け引き道具のようなものだ。わが党も中道層の視線を意識しなければならず、簡単には口にできない代物だ」と首をかしげている。
相方のこの発言に安氏があわてないはずがない。さっそく、「まず、民生の懸案から処理すべきであり、それは19代国会の残余任期中から始まる」と述べ、「国民の党が38議席を得たのは与党系の保守層が票を入れてくれたからだ。既存野党の方式では困る」とたしなめた。また、「わが党への過分な支持は、与野党を仲裁・調律してまともに仕事をする国会にしろという国民の命令だ」と念を押した。
同党の朱昇鎔院内代表も、「きわめて個人的な発言だ。共感する者はいない」と一蹴し、「政争を起こすだけの主張はなるべく自制し、慢心があってはならない」と釘を刺した。有力議員たちも「理念闘争から脱するのが創党精神だ」「第一号政策・公約のすべてが経済なのに、わが党がなぜ突然、政治攻勢を主導するのか」「我われを革命軍だとでも思っているのか」と反発している。
国民の党は選挙で、「2大政党による敵対政治の清算」をメーンに掲げた。千共同代表による《爆弾発言》は、それに背を向けるだけでなく、恨みを晴らすことに執着する過去の野党情緒と変わりがないとの批判がメディアで相次いだ。
党自ら素早く火消しに動き、まずは鎮静化に成功したように見える。だが、「新しい政治」を具現することで大選に挑む安共同代表と国民の党にとって、処理の厄介な《地雷》を抱え込んでいることを改めて示すことになった。
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敵対政治の清算
責任野党志向は本物?…「理念」と「現実」の相克続く
経済・安保が危機のただなかにあるにもかかわらず、それに目を合わせず政争に明け暮れた第19代国会。野党もその責任から免れない。そうした自省からか、共に民主党も今のところ脱イデオロギーへの動きを見せている。
同党の主流派=親盧派(盧武鉉・元大統領信奉者グループ)には文在寅氏(前大選候補・前党代表)がいる。党最大の「株主」であり、次期大選候補としての選好度も高い。首都圏圧勝に加え嶺南(慶尚南北)進出の立役者となり、自身に近い議員を多数当選させた。総スカンを食った湖南(全羅南北)さえ引き寄せれば、もっとも次期大統領に近い存在と言われる。
しかし、総選挙を率いた同党非常対策委員会の金鍾仁代表は、2期目に入った非常対策委と主要党職者を中道・穏健性向か、自らに近い人士で固めつつある。これは、左派系の親盧=親文派を遠ざけ、強い主導権をもって党の体質改善に拍車をかける決意と受けとめられている。
一方に、7月初めにも開催される予定の全党大会で、金氏が代表に全会一致で選出されることをねらった布石との見方もある。この間、「党代表争いが次期大選候補をめぐる代理戦争になってはならない」と主張してきた金氏は、大選管理型の党体制を築く意向という。
共に民主党の有力者の間から、「今回の総選挙は与党が敗北しただけであって、野党の勝利ではない」「対立と葛藤を増幅させる政治はだめだ。国政の責任を野党も分かちあわねばならない」といった見解が相次いできた。
なかでも注目されたのは、与党の有力な次期大統領候補・呉世勲前ソウル市長を破り、野党では最多の6期当選を果たし、党代表、国会議長、大選の候補者に躍り出た丁世均氏の発言だ。同党の前代表で、文在寅氏やいわゆる運動圏出身の勢力と近く、汎親盧派と目されている。
その彼が「足を引っ張る勢力だとの印象を払拭し、責任野党として再誕生してこそ、政権交代が可能だ。野党が多数になったからと毎日うるさくして国民を飢えさせれば、民心はまた爆発する」と強調、「与野党がともに参与する経済危機克服特別委員会をつくろう」と提議した。
ばかりか、「厳しい審判を受けた点では共に民主もセヌリと同じだ。湖南という中庭を(国民の党に)明け渡したのは深刻な敗北ではないのか」とし、返す刀で「最初から人物中心の大選を考えるようでは、12年のように失敗する」とも断じた。金代表を支持する半面で文氏を牽制したと受けとめられても不思議はない。
驚かされることはまだある。20日に開かれた共に民主党の当選者大会における特別講義で、「成長が最大の福祉であり、最高の分配だ」などといった、まるでセヌリ党のような主張がまかり通ったのだ。講師は、同党の中央選対委で国民経済状況室長を務め、比例で当選した崔運烈氏。「選挙過程でわが党は、企業と経済を締めつける政党だとの攻撃をたくさん受けた」とし、「野党としてタブーだったことでも、第一党となった今は主導的に経済難局を克服すべく、率直かつ勇敢でなければならない」と訴えた。
崔氏はまた、「大企業正規職の賃金は韓国経済の水準に比べて高い。だが、労組の組織力を意識して誰も問題を提起できていない」と指摘し、「経営者がまず自己犠牲を払い、正規職が苦痛を分担してこそ雇用が増え、非正規職問題も解決する。労組加入の200万には叱りを受けるが、労組に加入できず疎外された1700万には希望を与える」とも語った。
構造改革に協力姿勢も
野党の反対で5年近くも漂流状態にあるサービス産業発展基本法案についても崔氏は、党論とは異なる立場から踏み込んだ。「雇用増大はサービス産業の活性化に求めねばならない」と主張、金融・教育・観光・物流に加え、「共に民主党が反対してきた医療分野をもサービス発展法の対象にすべきだ。医療観光が活性化すれば観光業への波及効果は大きく、増えた税収を医療福祉の充実に回せばウィン・ウィンになる」との展望を示した。
共に民主党の金代表自身、国民の党の安共同代表とともに構造改革に協力する姿勢を見せている。労組のご機嫌をうかがってきた野党にしては異例のことだ。
政府・与党が推進しようとして野党に阻まれてきた構造改革など重要法案がここにきて、与野党が真摯に向き合う対象になりつつある。朴大統領による「国会審判論」はいったい何だったのかと思えてくるほどの変化だ。
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憤怒する民心
閉塞感の早期打開を…勝者に向かう厳しい視線
補欠選挙で再びの審判
民生・経済にまとわりつく閉塞感を早期に打開すべきだとする国民の要求はますます強くなり、これを阻害する「犯人」を特定しようとする監視もより厳しくなる。「共生」・「協治」を促す世論を背景に、政府・与党とこの分野に限ってでも手を携えることができるのか。うかうかできないのは過半を大きく上回る野党のほうだろう。
朴大統領は18日、青瓦台首席秘書官会議で「20代総選挙の結果は、民意が何だったのかを考える契機になった」とし、「20代国会が民生と経済にまい進する仕事をする国会になることを期待し、政府も新たに出帆する国会と緊密に協力していく」と明らかにした。これに対し、一部の野党人士やメディアからは「反省」になっていないとの不満が相次いだ。
北韓の核脅威への対応、なかでも開城工団の全面操業中断、テロ防止法、歴史教科書国定化方針、慰安婦問題韓日合意など現在進行形の懸案ばかりか、12年大選への国家情報院介入疑惑、セウォル号惨事対応などが争点として再登場することもあり得る。各種の市民運動団体による圧力もあり、野党の政府・与党に対する《合法的な圧力》によって、民生・経済を再び犠牲にする可能性も排除できない。
与党セヌリ党は惨敗を喫したことによって、親朴派(朴大統領に近いグループ)と非朴派の角逐はかえって激しくなっただけでなく、有力な大選候補を相次いで失ったことで当面、新たな結集軸をつくり出すのも容易ではない。潘基文国連事務総長を大選候補者に迎え入れようにも、セヌリ党の現状では難しいとの見方が支配的だ。
共に民主党の場合、7月にも開催予定の全党大会はその準備過程から目が離せない。非常対策委の金鍾仁代表は中道・穏健性向の人士で主要党職を握り、自身が競合することなく党代表に推戴され、次期大選管理型の体制を築きたい意向という。これに、党内の最大勢力である親盧派とその実権者で次期大統領にもっとも近いとされる文在寅氏がどう動くのか。党権を一気に奪取して大選への臨戦モードに入るとすれば、党に再び大きな亀裂が入りかねない。
国民の党も潜在的な葛藤要因には事欠かない。同党は選挙区では湖南政党の域を出ず、この地域での千正培氏の存在感は抜きんでている。半面、政党投票で第二党になり、全国政党になるうえで安哲秀氏の力が絶大な威力を発揮した。共同代表どうしでありながら、中道の安氏と左派系の千氏とはもともと水が合わない。それを早くも露わにした千氏の《爆弾発言》は、そのまま党内に沈潜する不気味な《地雷》だといって過言ではあるまい。
各党ともこのままでは、セヌリ党の親朴派・非朴派、共に民主党の親盧派・非盧派、国民の党の安派・千派の相克が構造化しかねない。2党4派だったものが3党6派になることから、政局の混迷は避けがたくなるとの見方さえ強まりつつある。
来年12月の19代大選を前に、各党には大きな試金石が準備されている。4・13総選挙の地域区当選者253人のうち、検察当局が選挙法違反で起訴したのは98人とされ、前回総選挙時の79人より多い。前回の当選無効は8人で、今回は二桁になるとの観測がしきりだ。裁判所も迅速に処理する構えとされ、早ければ来年4月12日に再・補欠選挙が実施される。19代大選の前哨戦として重要な意味をもとう。
野党はこの間、自らが執権中に推進した韓米自由貿易協定(FTA)の締結、済州海軍基地の建設に反対するなど場外闘争にだけ熱心で、国政の足を引っ張る勢力との烙印を押されてきた。それでも総選挙に勝てたのは、与党が傲慢だったからで野党がよくやったからではない。これを錯覚すれば、逆審判の風が吹くのにそう時間はかからない。韓国メディアは一様にそう指摘する。
韓国は「躍動的憤怒社会」の状態にあると言われて久しい。先端技法を取り入れた世論調査機関も、分析に実績のある政治専門家たちも、総選挙の見通しを誤った。憤怒する民心が次はどこに向かうのか、国会の多数を握った野党が耳目を集中するときだ。
(2016.4.27 民団新聞)