掲載日 : [2016-06-29] 照会数 : 6177
映画「抗いの記」完成…「強制連行」記し続ける林えいだいさんを描く
[ 上映会のあとトークする西嶋真司監督(左)と朗読の田中泯さん ]
来春全国公開へ
福岡県筑豊を拠点に、朝鮮人強制労働や戦争と平和の問題など、歴史に翻弄された人々をテーマに執筆している記録作家、林えいだいさん(82)を描いた西嶋真司監督のドキュメンタリー映画「抗いの記」が9、10の2日間、東京の千代田区立日比谷図書文化館日比谷コンベンションホールで上映された。
林さんは福岡県香春町生まれ。父の寅治さんは村の神主で、炭鉱での差別や過酷な労働に耐えかねて脱走した多くの朝鮮人労働者を家でかくまい、握り飯を与え、傷を癒して逃した。だが1943年4月2日、特高警察に逮捕され、拷問を受けた後に亡くなった。
両親の生き方から強い影響を受けた林さんは「私は国賊、非国民の子。戦争にこだわり、異国で犠牲になった朝鮮人や中国人の思いを記録し続ける理由はここにある」と語り「親父が権力によって命を奪われたというのが原点」と説明する。
筑豊の炭鉱にはいくつもの地獄谷と呼ばれるところがあり、朝鮮人労働者が住んだ「アリラン部落」と地図には載っていない「アリラン峠」があった。戦争中、福岡県だけでも約17万1000人の朝鮮人が強制連行された。炭鉱に送り込まれたなかには小学5年生くらいの子どももいた。
1960年に起きた水没事故で坑内の67人が生き埋めになった豊州炭鉱、亡くなった朝鮮人の名前が刻まれていないボタ石が置かれている古河大峰炭鉱近くの日向墓地なども紹介される。死んでもなお尊厳を与えられなかった朝鮮人労働者の無念さが伝わる。
現在、重いガンと闘っている林さんは、震える右手人差し指とペンをテープで固定して執筆を続ける。歴史の闇に埋もれた人々の声を世に送り出すために「死ぬまでこの問題をやっていく」と話す。
10日の上映後に西嶋監督と林さんの作品を朗読した田中泯さん(ダンサー)のトークがあった。
西嶋監督は「牙をむく姿勢を持ち続けることが本来のジャーナリズムの姿。えいだいさんの怒りや悲しみを表現してみたかった」と制作への思いを語った。
田中さんは、ドイツと日本の戦後処理問題に触れて「日本は有意なものは残すが、不利な記憶を呼び覚ますものにはフタをする。日本はずるい大人の理屈がまかり通っている。そういう大人たちが子どもたちに未来を言えるか。人間は皆、一番言いたいことを言えないで死んでいるかも知れない」と怒りをあらわにした。
「抗いの記」は7月29〜31日(13時30分、15時45分、18時)、北九州市環境ミュージアムで上映される。各回先着60人。前売り一般1000円、大学・高校生800円。当日一般のみ1200円。問い合わせは同ミュージアム(093・663・6751)。
また、2017年1月、東京を皮切りに全国公開を予定している。
(2016.6.29 民団新聞)