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制度の概要
福祉・税を一元管理…住民登録の全員に付番
マイナンバー制度とは「社会保障・税番号制度」のことで、日本政府がIT総合本部の世界最先端IT国家創造宣言を受け、利用者向けサービスと効率的な行政運営を実現する目的で「高度情報通信ネットワーク社会形成の施策を推進する」ために立法した。
この制度の導入により1,個人と世帯の状況に応じた社会保障給付の実現2,所得把握の精度向上3,社会保障や税の自己情報の入手4,役所手続きの簡素化5,医療・介護のサービス向上などが期待されるとしている。
マイナンバーとは13桁の法人番号及び12桁の個人番号をいう。法人番号は、設立登記法人等に付番され、国税庁「法人番号センター」が一元管理し、インターネットにおいて1,名称2,所在地3,法人番号とこれらの変更履歴が公表され、自由に利活用できる。
個人番号は日本国内に住民登録しているすべての住民に付番され、個人番号が記載された通知カードは住民票の住所宛てに日本国民と住民票を持つ外国人に郵送された。原則として個人番号は一生変更されず、総務省・地方公共団体情報システム機構が一元管理する。
今後は、税金に関する書類に、来年から社会保障の書類に番号欄が設けられ、国の行政機関と地方自治体等の間でマイナンバーの情報連携が開始される。さらに、戸籍・旅券・自動車登録事務、預貯金付番、医療情報の官民連携、ICチップの民間開放など、利用拡大が順次検討されている。
税や金融分野で「財産所得の確認統合システム」が構築され、福祉分野では「医療保険オンライン資格確認システム」が整備されるという。銀行でも金融信託取引、貯蓄、外国送金における番号提示が始まり、口座紐付けが18年から任意に開始、21年から義務化される。
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事業者への影響
在職者の番号預かる責任
事業者(法人及び個人事業者)は、従業員を雇っていれば、今年一月以降の在職者から個人番号を預かる必要が生じ、最終的に番号を適切に廃棄するまで責任がある。
事業者は、ケースによって連帯責任となる。特定個人情報等を不正漏えいした者に対して4年以下の懲役又は200万円以下の罰金のほか事業主にも罰金刑が科される。
罰則に対する事業主の対応として1,従業員の不正漏えいを防止する規定を整備し安全管理の教育や監督をする2,個人番号流出を防止するセキュリティ対策やログ・アクセス制御の技術的安全措置を整える3,特定個人情報保護委員会の監督指導への対応が挙げられる。事業者は、新規雇用、退職、外部報酬の支払等、番号取得・本人確認や調書作成の際に厳重な注意と適切な管理を要する。
さらに、税務署に提出する法定資料箋には、マイナンバーを記入しなければならない。いずれ、事業者間の経済取引書類にも消費税の関係上、番号を記入することになるだろうし、無番号は損金不算入、仕入税額控除不可となるおそれもある。
また、個人番号カードは健康保険証としても代替し、カルテやレセプトなどの医療情報とマイナンバーを連動させるシステムが18年から段階導入され、新制度の医療番号で、医師、医療介護機関や薬局が個人の診療結果や処方薬の情報を共有する。医療や介護を営む事業者は、社会保険診療報酬の手続きをするうえで行政機関等との事務連結が必須となる。
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個人への影響
各種申請は利便も…関係機関で情報を「名寄せ」
●社会保障と税
マイナンバー制度では個人の所得把握により、社会保障と税両分野の情報を適正に一元管理するネットワークが開発され、連携事務(紐付け・名寄せ)が関係機関と地方の間で行われる。
社会保障では新たに「総合合算制度」を導入し世帯全体の所得・医療・介護・保育・障害の情報をひとまとめにして保険料免除、手当支給、高額医療費の決定をする。
保険証の機能も変わる。個人番号が記載された保険証ICカードに医療福祉情報を一元化し、その提示により、年金手帳、医療介護保険証を提示したものとみなす。
個人番号は具体的にどんな時に必要なのか。ハローワークの雇用保険届、健康保険組合や年金機構の各書類に本人や配偶者、子供の個人番号を記載する。
さらに、市区町村役場への手続きとして、児童手当認定請求、生活保護申請、身体障害者手帳の交付申請、特別障害者手当の申請、里親の認定申請、保育所の入所申込み、要介護認定の申請などがある。
また、所得税の扶養控除申告書と住民税の給与報告書に本人と配偶者や扶養される者の個人番号を記載し、雇用主は税務署や自治体に所得を報告する。
個人の税情報は、誰がいつ、いくら、どのような収入があったのか、国税局資料調査課に集まる。そして他機関へ所得と税歴が情報連携されプログラムによって社会保険の加入義務や料額の適正額、健康保険又は所得税の扶養の適否、各種手当などが突合のうえチェックされるだろう。
マイナンバー利用者は、政府のクラウドサービスを介し、スマートフォンやパソコンで、マイナポータル、オンラインサービス、コンビニ交付の方法で自己情報が利用できる。自己情報とは、保険証、印鑑登録、資格身分証明、個人認証書類、特定個人情報、医療介護・健康に係る情報などだ。
●海外送金と海外財産
所得把握を強化
一回100万円超の海外送金の場合、銀行が税務署に提出する国外送金等調書にマイナンバーの記入を求められる。住民票のない海外居住者が国内の銀行口座を利用する海外送金(送金・受領の両方)に制約がかかる。海外居住者は銀行に番号告知ができないので、送金の取扱いが制限され実際の住所の開示が求められる不便が生じる。
海外財産については、国外財産調書制度によって株や預金、不動産など5000万円を超える資産を海外に保有している国内居住者に対して税務署に調書(財産目録)の提出を義務づけている。調書を提出しない場合でも、租税条約を締結した外国税務監視当局から、国内居住者が受けた海外の利子や配当の額、財産の評価金額などの脱税防止の情報がときに無条件で提供される。
このようにマイナンバー制度、預金口座付番、国外財産調書制度、租税条約によって、国税庁が容易に国外の所得財産の申告漏れを把握できる体制の整備が進む。
●外国籍者と本人確認
「なりすまし」防止厳格に
個人番号は、外国籍の中長期在留者等にも付番される。
中長期在留者等とは1,3か月以下の在留期間の者2,短期滞在の在留資格の者3,外交又は公用者4,これらに準じる者5,特別永住者6,日本人の配偶者、在留資格が「技術」「人文知識・国際業務」等の就労者、技能実習生、留学生などである。
どのような者でも、就労するときに雇用主が税務署や社会保障機関に提出する書類に個人番号を記載するため、就労者は番号を求められるが、混乱しないよう注意を要する。
運転免許証も在留カードも12桁で、住民票の写しには、住民票コード、マイナンバー、在留カード番号の三つが記載されるからである。
個人が通訳料や翻訳料、講演料を受け取るときも個人番号を提示しなければならない。住宅や事業所、駐車場を賃借するときも、不動産の使用料等が一定額を超えると所有者が税務署に調書を提出するため、使用者は個人番号を求められる。銀行証券口座の開設時点でも同様である。
これらの申請や契約の際に、「なりすまし」を防止するために、自治体や金融機関、雇用主は、厳格な本人確認を行う必要があるとされている。「正しい番号であることの確認(番号確認)」と、現に手続きを行っている者が「番号の正しい持ち主であるかどうかの確認(身元確認)」を行う。
番号確認と身元確認のため1,個人番号カード2,通知カードと在留カード、運転免許証など3,個人番号の記載された住民票の写しと旅券、在留カード、運転免許証、写真付き学生証等で確認する。
本人以外の確認も必要になる場合もある。例えば、国民年金の第3号被保険者の届出では、従業員が配偶者の代理人として、配偶者の個人番号を事業主に提供する。これらの本人確認は、番号の提供を受けるものが必要に応じ、その度に行わなければならない。
そして、転居など、個人番号カードの記載内容に変更があった場合、通知カード又は個人番号カードを14日以内に、役所に届出て変更してもらわなければならない。
●外国人管理
帰国しても変わらず
個人番号は在留カードを取得した外国人にも付番されるので、その出入国のほか、留学ビザ者の労働時間が週28時間以内なのか、家族滞在の管理にも使われるだろう。事業者は個人番号の提示を条件として外国人を雇用し給与を支払い、労働者が社会保険に加入してないと雇えないといった場面も想定される。
また、外国人が本国に帰国しても、生涯マイナンバーは変わらない。日本に中長期滞在する外国人が再入国許可を取得せず出国する際に在留カードと個人番号カードを返却するが、個人番号が記載された別のカードが交付される。再び日本に入国して中長期滞在するとき、その別カードを提示することで同じ個人番号が交付される。
入管は、在留カードと個人番号で、外国人滞在者や労働者の所在場所、在留移動歴、在留資格と資格外活動、給与額、納税などの情報を管理するだろう。中長期滞在する外国人の個人番号、基礎年金番号と税情報が番号を統括する総務省から法務省へ情報照合され、在留期間の更新や永住権、帰化申請をする際に、担当局はその充足要件を判断すると考えられる。
将来、世界最先端のIТ国家を目指す日本行政の情報連携(紐付け名寄せ)ネットワークは、社会保障や税以外にも際限なく広がっていくだろうか。やがて日本に居住する個人のあらゆる情報が一元管理されるという、新たな管理社会が想像できる。マイナンバー制度は、悩ましい側面もあるが、普及拡大に伴い上手に対応するほかない。
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プロフィール
イ・ミョンス 1958年山口県下関市生まれの在日3世。在日韓国青年会下関支部組織部長、同県本部会長を経て85年から中央本部に常勤。総務部長、副会長。外国人登録法改正運動に関わる。会計事務所勤務を経て04年に税理士登録。
(2016.1.1 民団新聞)