掲載日 : [2015-09-09] 照会数 : 6061
読みたいウリ絵本<25>シルム 手に汗握る大一番
[ キム・ホンドが描いた民俗画「シルム」(国立中央博物館所蔵) ]
[ 文 キム・ジャンソン絵 イ・スンヒョン訳 ホン・カズミ出版社 岩崎書店 ]
厳しかった暑さも、ずいぶんと和らいできました。運動をするのにも、いい季節になります。そこで今回は、力自慢のチャンサ(壮士・力士のこと)たちの戦いを迫力満点に描いた絵本、『シルム 韓国のすもう』を紹介しましょう。
シルムとは、むかしから韓半島で行われてきた運動競技です。シルムという言葉の由来には諸説ありますが、「たいへんなことを成し遂げるために努力する」という意味の「シルダ」からできた言葉というのが一般的なようです。
4世紀のものと考えられている高句麗の「角抵塚」古墳の壁画には、ふたりのチャンサがシルムをしている姿が描かれていて、すでにこの時代にはシルムが行われていました。
上の写真は朝鮮朝時代の偉大な画家、キム・ホンド(金弘道)の民俗画です。シルムの様子が生き生きと描かれているでしょ。シルムを見ている人たちの表情からも、シルムが当時の人たちにとって欠かすことのできない大切なものだったことがうかがい知れます。
そうです。民衆は、シルムが行われる日を、まだか、まだかと、とてもたのしみに待っていたのです。
シルムは、正月15日の大ポルムナル、3月3日のサムジンナル(上巳の節句)、5月5日のタノ(端午の節句)、7月15日のペクチュン(百中)、8月15日のチュソク(秋夕)などの節句に行われました。
シルムを見ようと、村じゅうの人たちが、川辺の砂地や市の広場に集まりました。その見物客を目当てに、餅、飴、クッパ、ノリゲ(女性用の装飾品)、靴などを売る商人がまたやってきて、たくさんのお店を並べました。
そして競技が終わると、この世で一番強いチャンサ‐「天下壮士」が現れたことを祝って、農楽隊がにぎやかに歌って舞ったのでした。このようにシルム大会は、単なる運動競技ではなく、村じゅうの老若男女が一緒にたのしむ、大切なお祭りだったのです。
さて、絵本の内容です。 端午の節句の日、川辺の砂地に、わいわい、どやどや、見物客がおしよせました。試合がはじまったのです。次つぎ勝ち抜いて最後に残ったのは、ふたりの男。 でてきた、でてきた、赤のチャンサ。
うおっ! 山のようにでっかいぞ!
でてきた、でてきた、青のチャンサ。
おやっ! ナツメの実ほどちっちゃいよ!
赤のサッパ(腰と太ももに巻くひも)、青のサッパ、ぐっとしめ、礼儀正しくおじぎをします。
がっちりふたりが組み合って、相手のサッパをつかんだら、いざ、勝負!
ところで、韓国のシルムは日本のすもうとよく似ていますが、決定的にちがうところがあります。どこだか、おわかりですか?
シルムは組み合ってから勝負がスタート。相手を倒した方が勝ち。日本のすもうのような「つっぱり」「寄り切り」「押しだし」がありません。
さぁ、赤のチャンサと、青のチャンサの勝負。勝ってウシをもらい、そのウシに乗って農楽隊と村を練り歩いたのはどちらでしょうか? 手に汗握りながら絵本を読んで、大一番の結末を見届けてくださいね。
キム・ファン(絵本作家)
(2015.9.9 民団新聞)