3月3日は日本では「桃の節句」ですが、韓国では「サムジンナル」(上巳の節句)という節句です。この日は、お餅にツツジの花を貼りつけて焼いた花煎を食べて、待ちわびた春の到来を祝うのです。そしてサムジンナルは、「江南」にいっていたツバメがもどってくる日でもあるのです。
ツバメといえば、韓国の郵便局は写真のようにツバメをモチーフにしたマークです。でも、いったいどうして、ツバメなのでしょうか?
どうやらその答えは、今回紹介する絵本、『ノルブとフンブ』のなかにあるようですよ。
むかしむかし、あるところにノルブとフンブという仲のいい兄弟がいました。ところがアボジが死ぬと、兄のノルブは弟のフンブを家から追いだし、アボジの遺産を独り占めにしてしまうのです。
ある日、弟のフンブの家に巣をかけたツバメのヒナがヘビに襲われます。フンブはケガをしたヒナを懸命に看病してやります。やがて巣だったツバメは、江南へ飛んでいきました。
つぎの年の春。ケガをしたツバメがフンブのところへもどってきて、お礼にとひょうたん(ふくべ)の種を落とします。種をまくと、あら不思議。あっという間にどんどん育ち、大きな実をつけました。実を割ると、お金や宝石がたくさんでてきたのです!
うわさを聞きつけた兄のノルブは、非情にもツバメのヒナにわざとケガをさせて放っておきます。江南からもどったツバメは、フンブのときと同じようにひょうたんの種を落とすのですが、実を割ると泥やゴミ、おまけに鬼まででてきて家をメチャメチャに壊してしまうのでした。
住むところのなくなったノルブは、重い心をかかえながら弟の家を訪ねます。兄に家を追いだされたフンブでしたが、ノルブをこころよく迎え入れ、それから兄弟はむかしのように仲よく暮らしました。
さて、このお話のなかで、ツバメは「幸運の種」を持ってきましたね。むかし話のツバメのように、よい報せを届けたいということから、韓国の郵便局のシンボルマークは、1983年からずうっとツバメのマークなのですよ。
ところで、むかし話にでてくる「江南」とは、いったいどこなのでしょうか? この場合の「江」は韓国の漢江ではなくて、中国の長江。つまりは、長江より南の地という意味です。けれども南のどこなのか? だれも知りませんでした。
実は、江南がどこなのか特定されたのは、1960年代のこと。米軍の協力のもと、64年に各種の鳥6万羽にリングをつけて、はなったのです。リングをつけられたツバメは、タイ、フィリピン、台湾、ベトナム、マレーシアで発見されました。そうしてついに江南が、東南アジアの国ぐにだということがわかったのでした。
しかし近年は、韓国へもどってくるツバメの数が激減。ソウルでは見ることすらむずかしい鳥になってしまいました。そこで、県をあげて40年以上もツバメの調査を行ってきた、石川県に学ぼうとしています。慶尚南道は2012年から石川県との間で「ツバメ交流」を開始。13年には韓日の子どもたちが一緒に、韓国のツバメを調査したのですよ。
キム・ファン(絵本作家)
(2015.3.4 民団新聞)