掲載日 : [2016-03-09] 照会数 : 6703
北韓制裁安保理決議…包括的で緻密 異次元の圧力
[ 開城工業団地も2月11日、全面的に操業停止となった(操業時の縫製工場) ]
「統治資金」に打撃
資産凍結・禁輪 幅広く
朴槿恵大統領の重大決意も動因
国連安全保障理事会は北韓に対する新たな制裁決議の採択にあたって、当初の予想以上にまとまりを見せた。「水爆実験の成功」を豪語し、米国を脅かし得る長距離弾道ミサイルの存在を誇示した金正恩政権への危機意識が本物になっただけでなく、その不可測性に国際社会の嫌悪が決定的になったことがまずある。
また、朴槿恵大統領が北韓の核・ミサイル脅威に対応すべくTHAAD(高高度防衛ミサイルシステム)を導入する可能性に言及(1月13日。新年談話)したばかりか、官民合わせて970余億円の投資を含む膨大な経済的損失を押して開城工業団地の全面操業停止を決断するなど、金正恩の暴走阻止のためにあらゆる手段を動員する覚悟を内外に示した(2月16日。国会演説)ことで、中ロの危機意識に火をつけたことも無視できない。
新決議は国連全加盟国に対し、北韓を仕出し地、仕向け地、仲介地とするすべての貨物に検査を義務づけた。これまでは、大量破壊兵器関連などの禁輸物資を積載している「合理的な疑い」がある場合に限られていた。北韓に関連する貨物の動きに大きく網がかけられたことになる。
禁輸物資の搭載が根拠ある情報によって疑われる北韓航空機の離着陸と領空通過、同様の船舶の入港ついても拒否・禁止しなければならない。制裁逃れをふせぐために、北韓への船舶、航空機のリース、チャーター、乗員の提供を禁止し、北韓船舶の登録操作を禁止するよう要請した。
また、北韓の「遠洋海運管理会社」(OMM)が保有する船舶については入港そのものを禁止し、入港した場合は資産を没収・凍結することができる。フィリピン当局が実施した新決議に基づく制裁第1号はこれに該当する。先月だけでOMM船舶19隻の入港を確認した中国当局は、制裁対象船舶の動きを監視し入港拒否の体制をとった。
鉱物資源の輸出ストップかかる
北韓にとって外貨稼ぎの大黒柱である鉱物資源の輸出にも待ったがかかった。北韓は石炭、鉄、鉄鉱石や金、チタン、バナジウム、レアアースを供給、売却、輸送してはならず、すべての国が北韓からこうした原料を調達してはならないとした。生計を理由にした例外条項はあるものの、年間17億㌦前後を稼ぎ出す鉱物資源輸出の激減は避けられまい。
決議は同時に、すべての加盟国に対し北韓に航空用ガソリンやナフサ系ジェット燃料、ケロシン系のジェット燃料やロケット燃料を含む航空用燃料が売却、供給されることを阻止するよう義務づけた。中国による原油の供給は今回の制裁対象に含まれていない。これを精製すれば航空燃料をまかなえるとはいえ、北韓はコストと時間の制約という痛手は免れず、中国の供給操作にも神経をすり減らすことになる。
大量破壊兵器以外の武器取引も全面的に禁止された。一時期は最大で年間5億㌦を輸出し、制裁対象になってから漸減傾向にあるとはいえ、今も年間2〜3億㌦の収入をあげている分野だ。小火器・小型兵器とその関連物資を含むすべての武器と関連物資、およびそのような武器や関連物資の供与、製造、維持、使用に関する金融取引、技術訓練、助言、サービスや支援にも適用される。
根拠ある場合は銀行口座封鎖も
金融制裁は北韓にとってボディーブローになるだろう。加盟各国に対し、北韓の銀行支店、子会社、代表事務所の新設を禁止した。一連の制裁決議が禁止した他の活動につながり得ると信じる合理的根拠がある場合、90日以内に北韓にある代表事務所、子会社、銀行口座を閉鎖し、公的・私的な金融支援(貿易に関与する自国の国民・団体に対する輸出信用、保証または保険の供与を含む)を提供しないよう義務づけた。
大量破壊兵器関連の活動にたずさわる北韓の政府や党機関、企業の資産を凍結し、資産や財源を移転できないようにする措置も含まれている。北韓が国際金融ネットワークを迂回して制裁網を潜り抜けないよう、金を決済手段として使えないようにもした。これらは北韓に対する事実上の金融封鎖と言える。
抜け道だらけを今回はふさいだ
安保理のこれまでの制裁決議は抜け道だらけだった。それを証明したのがほかならない北韓の核・ミサイル開発の進展だ。
日本製のレーダーや音波探知機といった海洋電子機器、カナダ製の飛行制御装置、米国製のGPS(全地球測位システム)など、軍事に転用された例は限りない。同じく禁輸品目である高級腕時計や高級車、娯楽スポーツ用品などはなおさら、完全封鎖を期待することは今後とも困難だ。
新決議の目的は主として、大量破壊兵器の開発や党・軍・政の幹部を掌握するための「統治資金」に上納されるカネの流れに大ナタを振るうところにある。年間輸出額が17億㌦前後の鉱物資源はどれほど減少するのか。中国としても実績をあげねばならず、安易な対応ですますわけにはいかない状況がある。武器輸出は2〜3億㌦から大きく落ち込む公算だ。昨年実績で1・2億㌦の賃金収入を得た開城工団はすでに操業を中断した。
制裁対象になっていない外貨稼ぎに、年間8億㌦前後の繊維輸出、同じく3〜4億㌦と推計される労働力の海外輸出がある。これらも金融制裁の影響を受けるほか、労働力輸出については殺人的な労働が強制されていることから、安保理の制裁を待つことなく受入国自らが善後策を講じる可能性がでてきた。
中国、ロシア、東南アジア、中東、アフリカ、さらにはEU加盟国の一部など50カ国に、最大で10万人と目される労働者が派遣されているという。北韓の国家保衛部の監視を受けながらの集団生活、休日のほとんどない長時間労働のあげく、賃金の90%以上が上納金や忠誠資金として吸い上げられている。
明らかに国際的な労働基準から逸脱しており、国連や国際労働機関(ILO)は人権蹂躪もはなはだしい労働者輸出を禁止するか、労働条件と生活改善に果断な対処が求められよう。米国の独自制裁にある「人権蹂躪関連取引」の禁止対象にも該当する。国際刑事裁判所(ICC)への提訴まで検討されている。
核開発の凍結と監視導入が前提
安保理の新決議は、制裁措置が北韓住民に人道上の悪影響を与えることを意図したものでないことを強調するとともに、6者会談への支持を再確認しその再開を要請している。住民の要求を犠牲にして核・弾道ミサイルの開発に突き進む特定支配層をターゲットに制裁を強化する一方、対話に応じるよう促すメッセージを込めた。
韓半島を非核化するための協議はいずれ開かれる。ただ、いかなる対話の場も、北韓が核保有国として臨めることはありえず、核開発の凍結と監視体制の導入が前提となる。いずれにせよ、制裁が一定の効果をあげてからの問題だ。
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初の制裁実施 比国で
北韓貨物船を差し押さえ
フィリピン政府は5日、インドネシアのパレンバンを出発して3日にスービック港に到着した北韓の貨物船「ジントン号」を差し押さえ、乗組員21人の国外退去処分を決めた。同号は中国の湛江港に向けて出発する予定だった。AFP通信などが報じた。
これは、3日に国連安全保障理事会が新たな対北韓制裁2270号を採択して以降、北韓の貨物船が国際社会の制裁を受けた初のケースだ。
フィリピンは安保理制裁リストにジントン号の船舶番号が記載されていたことを根拠に同号を差し押さえた。フィリピン外務省は「安全性の問題でジントン号を差し押さえており、今後、国連調査団が直接現場に来て調査を進める」と説明した。
過去4回の安保理制裁決議では、武器などを積んだと疑われる北韓船舶のみを制裁するよう規定されていた。だが、パーム油の副産物を積んでいるとされる同号は、新決議に基づき、禁輸物資積載の有無にかかわらず「制裁リスト」に入っているという理由だけで差し押さえられた初の北韓船舶になった。
ジントン号は、1997年に日本の佐世保重工が建造した6830㌧級の貨物船で、書類上はシエラレオネ船籍。新制裁決議2270号は、北韓「遠洋海運管理会社」(OMM)所属の船舶31隻の船名と、国際海事機関(IMO)の登録番号を付属書に明示し、資産凍結の対象と規定した。
OMMは2013年にパナマ運河で砂糖袋の下にキューバの武器を積んでいたことが発見され、兵器密売の疑いでパナマ当局に拿捕された貨物船「清川江」の実質的な所有会社と分かり、14年に安保理の制裁対象に追加された。
同社は昨年、制裁を避けるため船舶の名前と船籍を変えた。
(2016.3.9 民団新聞)