掲載日 : [2016-03-16] 照会数 : 4049
北「民族自主」放棄の「朝米平和協定」(上)
休戦協定の当事者
かつては「南北間」主張…74年3月になって一変
北韓は4回目の核実験強行(1月6日)を「自衛的措置」と強弁すると同時に、「朝米平和協定」締結が「韓半島と世界の平和と安全を守るうえで先延ばしできない最優先課題」だと主張している。
これに先立ち北韓は昨年10月1日、李洙墉外相の国連総会一般演説で韓国戦争休戦協定(1953年7月27日締結)に変わる朝米平和協定の締結を米国に呼びかけた。続いて7日には、北韓外務省スポークスマンが同趣旨のメッセージを米国に公式に伝えた。その後、同提案をめぐり北韓と米国間で接触があったことが最近明らかにされた。
これと関連して、韓国戦争当時参戦した中国は、休戦協定を平和協定に転換する問題を韓半島の非核化と並行して議論するよう米国側に提案するなど、「平和協定」問題が改めて注目されている。
韓国政府は、韓半島問題解決のためには北韓の非核化が優先し、「平和協定」の締結も韓国が主体になるべきだと主張している。韓米両国は、北韓とのいかなる対話においても「北韓の非核化が最優先」され、今は4回目の核実験と事実上の長距離弾道ミサイル発射を受けて採択された国連安全保障理事会の対北韓制裁決議の履行に集中する時だと確認している。
韓国排除に狙い法的妥当性欠く
朝米平和協定主張は、休戦協定の当事者である韓国の排除を目的としており、非現実的で法理的にも妥当性を欠く、きわめて政略的なものだ。
北韓の主張は1,休戦協定の署名者は米国および北韓・中国の3者で、韓国は当事者でない2,中国軍はすでに撤退している3,このため平和協定は朝米平和協定が最も合理的というものだ。
だが、休戦協定の署名者は国連軍総司令官と、北韓軍最高司令官および中国人民志願軍総司令の3者である。
当時、韓国軍は国連軍司令部の指揮下にあった。国連軍側は、韓国軍を含む参戦17カ国が統一司令部を構成、その指揮下にあったので、国連軍総司令官の署名をもって休戦協定の参加が完了した。韓国も、米国などほかの参戦国とともに休戦協定の法的当事者となったのである。
休戦協定は、戦闘行為の停止とそれに伴う捕虜交換などの取り決めが目的であったため、交戦当事者の軍司令官が署名したのであり、その署名だけで十分であった。
協定署名者に韓国人の名前がないことをもって「韓国は休戦協定の当事者でない」とするのは明らかに間違いだ。
そもそも北韓が朝米平和協定を主張するようになったのは、韓国(朴正熙大統領)が「南北不可侵協定の締結」を提案した2カ月後の74年3月(最高人民会議名での米議会宛の書簡送付)からのことである。
その前年までは韓国を「休戦協定の当事者」とみなし、休戦協定に変わる平和協定を南北間で締結することを北韓は主張していた。
たとえば、72年1月、金日成首相(当時)は日本の読売新聞記者との単独会見で「朝鮮での緊張を緩和するためには、なによりも朝鮮休戦協定を南北間の平和協定に替える必要がある」と強調していた(読売新聞1月11日付1面トップ「南北朝鮮の平和協定を 金日成首相が提案」)。
さらに、同年7月の自主・平和・民族大同団結の統一3原則を盛り込んだ「7・4南北共同声明」発表後も、北韓は南北間の平和協定締結を提唱。73年11月に平壌で日本新聞協会代表団と会見した鄭準基副首相(当時)も「南北の平和協定は今でも結ぼうと言っている。米軍が撤退した後とか前とか言っていない」と強調していた(毎日新聞73年11月7日)。
「わが民族同士」逆行する言動
それから約5カ月後に「南北」から「朝米」へ、つまり「民族自主」から「米国依存」へと一変させたのだ。そのことについては、なんの説明もない。
北韓が84年1月に行った南・北・米3者会談提案も「米国との平和協定締結と南北間での不可侵宣言」をめざすというものであった。
また、韓国側の南北間緊張緩和増進・平和制度化呼びかけで97年12月から99年8月まで開かれた南・北・米・中4者会談でも、北韓は韓国を休戦協定当事者と認めず、米国との平和協定締結・駐韓米軍撤退を主張して譲らなかった。
のみならず、「わが民族同士」を強調した2000年の「6・15南北共同宣言」後も北韓は、「朝米平和協定」主張をやめず、金正恩政権でも繰り返している。
そのため、ここ日本においても、北韓の忠実な代理人である朝鮮総連と、その別働隊である韓統連(在日韓国民主統一連合)によって運営されている「6・15共同宣言実践日本地域委員会」(議長=孫亨根・韓統連議長)は「朝米平和協定締結のための運動推進」を重要活動方針としている。
北韓の独裁世襲政権を「統一勢力」として全面的に擁護する同委員会は、2月26日の第8回総会では朝米平和協定推進運動を確認するとともに、北韓の核実験・ミサイル開発を支持し、「米南合同軍事演習」を糾弾する特別声明を採択している。韓統連グループは、それに先立ち2月22日、駐日米国大使館前で「米南合同軍事演習の中止」と「朝米平和協定締結」を要求した(総連機関紙「朝鮮新報」3月7日)。
かねてから日本地域委員会は「6・15共同宣言とその実践綱領である10・4宣言(07年)を履行し統一を成し遂げるためには、朝米平和協定を締結し、朝鮮半島に恒久的平和体制を実現することが必須条件」などと強弁している。
(2016.3.16 民団新聞)