新型コロナウイルス感染が世界で猛威を振るっている。韓国では1月20日に初の感染者が発見された後、検査と隔離を徹底的に行ってきた。感染者確認から3カ月。韓国では新型コロナウイルスとどう向き合ってきたのだろうか。慶州市に暮らす荒木潤さん(翻訳・執筆業)とソウル市在住の宋周榮さん(会社経営)李賢静さん(展示企画者)夫妻に聞いた。
徹底検査が奏功…日本の対応遅れ目立つ
情報の透明性も差
荒木潤さん
韓国では大邱にある新興宗教団体の信者から感染が拡大したことから、感染の疑いのある人には全員、検査をする体制が取られました。
この時、私がまず違和感を覚えたのが、日本では「韓国はとにかく騒ぎ立てて、すぐに検査を受けさせている」とか、間違った情報が流れたことです。この時、政府は対象者の選別をきっちりしたけど、それでも病院がひっ迫したのは事実です。
3月になって政府は、慶州の空いた宿泊施設を借り上げて軽症者をすぐに移送しました。これはものすごく早かった。韓国はこの対応によって落ち着いたんです。
韓国が医療崩壊を防げたのは軽症者と重症者の隔離を早めにやったからだと思います。今はコロナの影響で行けませんが、私は大邱の大学に1週間に1、2回、通っていました。大学の研究者は、大邱は今は落ち着いてきていますが、一時大変だったと話していました。
日本政府が問題だなと思ったのは、韓国では感染者が多いけど、日本は少ないと言ってそれで国民を安心させてきたようなところです。危機感を持つのが結果的に遅くなったと思いますね。
学校も今、全部オンライン授業に切り替えています。休校になってどうしても対応できない共働きの家を中心に、全国の学校で託児スペースを設けて子どもの面倒を見ています。そういうところのセーフティーネットはしっかりしています。
あとは長所、短所はありますが、韓国は日本に比べて共同体意識が残っていて、お互いに助け合うみたいな部分が社会の安定を生み出しているのかなと感じます。
日本では共働きで仕事を辞めなければいけなくなったとか、休業補償の話が出ていたけど、韓国ではそういう話はあまり聞きません。私も不思議で韓国人の妻に聞いたら「本当に困っている人は学校で子どもを預かってくれるから」と話していました。
韓国もテレワークはやっていますが、出勤者も結構いるようです。感染者をなんとなく抑え込んでいるという安心感があるせいでしょうか。まだ安心できる段階ではないと思いますが。
私は日本の報道は気になるので、頻繁に見ています。韓国市民は自粛生活に入っていますが、批判とかはあまり聞かないし、休業補償の話はあまり出ていません。テレワークをやっている義理の妹は一人娘がいるけど、余裕があるわけじゃないから大変だとは思います。
ソウルでも感染者が出て、まだ安心はできませんが、アプリで陽性感染者の情報がスマホに入ります。いろいろ批判もありますが、一定の効果は上げていると思います。陽性感染者がどこを歩いたとか情報が入るので、今日は歩くのは止めようとか、判断の抑制にはすごくつながっています。
さらに、アプリがなくても政府や市役所から携帯メールで情報が送られてきます。スマホに適宜感染情報が送られてくるので、これが一定の効果を上げているように思います。陽性感染者がどこを歩いたかまで知らせてきますので、今日はその近くに行くのは避けようとか、行動の抑制にすごくつながっています。
私は韓国と日本の違いは2つだと思います。一つは透明性。韓国はこれをとにかく担保した。韓国の市民パワーはものすごく強い。仮に韓国で日本と同じように医師が検査を受けるべきだと言っているにもかかわらず、受けさせないような事態が1件でもあったら市民は大騒ぎです。ただじゃおかないですよ。
日本は大人しすぎて我慢して、泣き寝入りするじゃないですか。根本的なところで、市民パワーがこの結果を生んでいると思います。
あとは新型コロナウイルスの検査体制のあり方です。韓国も最初は検査規模をどうするかという問題に突き当たったはずなんですが、必要と判断される場合にはためらわず実施して来ました。
それで一時ひっ迫したのは事実だけれども、すぐに対応したから問題が生じなかったんです。
感染者の移動経路 アプリで公開…家賃半減(3カ月)運動も
宋周榮さん(左)と李賢静さん(右)
私たちはソウル市江南区に暮らしています。4月16日現在、5日間連続で国内の感染者が20人台に抑えられている状況です。海外からの入国者(帰国者)を除けば感染者は1桁になりました。
勤務者は在宅勤務や隔月有給休暇制などを利用し、勤務地内ではできるだけソーシャルディスタンス(他者と距離をとる)を実施しています。その結果、コロナ拡散が減ってきました。
仕事は業務内容によって違いますが、普段通りに行われているところも多いですね。ただ、人が集まるような会議は避け、オンラインやSNSでのやり取りが頻繁に行われていると聞いています。製造業やサービス業などはマスク着用や消毒などが徹底されており、必要以上の接触なども控えています。
飲食店の夜間営業が大幅に減りました。家族など大人数での食事や勤務後の会食などは、政府の要請で自粛しているためです。アプリで感染者の移動経路が公開されますが、大半の人が飲食店を利用しているせいもあります。
レストランなどでは食事時の距離をあけるために、テーブル配置を調整したり顔を合わせないようにと各自工夫をしています。デリバリーなどでお店を運営している飲食店も目立ちます。
韓国政府は一般家庭に緊急災難支援金を5月中に、4人家族基準100万ウォンの支給について議論をしています。
サービス業については地方政府部別で消費税納付猶予、損害のある事業に対する資金貸し出しや支援など積極的な政策をとっています。
また、テナントの賃貸料の負担を減らすキャンペーンが行われています。「優しい建物主」とのフレーズで3カ月間賃貸料を50%にする市民運動です。
政府は建物主の所得税減免などの形で、市民間の協力意識を高める方向で進めています。
(2020.04.24 民団新聞)