5月末から6月上旬にかけ朝日、毎日、東京、日経などの新聞や他の各種報道でも、ヘイトスピーチ解消法成立10周年という「節目」を意識した多くの記事・報道に接することができた。世論が喚起され、社会的な議論が前進することを願ってやまない。
現在、日本の『国会』における議論の状況はどうか。去る5月26日、衆議院法務委員会において、ヘイトスピーチ問題をテーマにした約1時間の質疑応答があったばかりである(質問者は有田芳生衆議院議員/衆議院法務委員)。内容を簡単に紹介したい。読者の皆様と「現状認識」を共有できれば幸いである。
本年度、法務省がヘイトスピーチに関する実態調査を実施する事が質疑の中で触れられた。この実態調査は今後の人権行政の基礎となる「法務省の認識」を直接形成するため、大変に重要である。また、法務委では、今般の実態調査はネット上のヘイトスピーチに関する情報収集等を内容とすること、法務省による実態調査は10年ぶりとなること、2016年の調査では予算は約300万円であったが今回は約7000万円であること等が述べられた。法務省も今回は力を入れている様子が窺える。強い期待を込めつつ注目していきたい。
また、法務委ではヘイトデモの増減に関して警察庁長官官房審議官の答弁があった。この答弁では、「右派系市民グループによるデモの件数」として説明されたが、ヘイトスピーチ解消法施行前の2014年度は約120件、15年度は約70件だったが同法施行後の16年度は約40件、17年度は約50件程度となり、19年以降は10件から20件で推移している、と説明された。ヘイトスピーチ解消法の施行後ヘイトデモは明らかに減少傾向となり、現在では相当程度抑制されている。ヘイトスピーチ解消法の「成果」が、警察庁からの答弁でも裏付けられた形である。
しかし、ネット上のヘイトスピーチは増加傾向にある。法務委でも、入管庁が実施した調査では、ヘイトスピーチを受けた「場所」について、インターネットと回答した在留外国人の割合が、22年度は34・4%であったのに対し、24年度は65・5%となっていたことが紹介されており、法務省人権擁護局長からもネット上でのヘイトスピーチが増加傾向だと認識していると答弁があった。ネット上の対策に今後の重点が置かれる可能性が高いことは、既に示唆されている。
国連人種差別撤廃委員会の日本審査の状況について、外務省大臣官房審議官の答弁があった。国連人種差別撤廃委員会による直近の日本審査が2018年であったこと、審査を経て人種差別撤廃委員会から日本政府に対してヘイトスピーチ解消法の適用対象拡大やヘイトスピーチの加害者への制裁確保等を求める内容の『総括所見(勧告)』が出されたこと、昨年12月に次回の日本審査のための事前の質問表が送付されていること、この質問表については現在作成中であることが説明された。前述の、人種差別撤廃委員会からの総括所見(勧告)は、英語の原文も、和文もネット上で公開されている。次回審査においてどの程度克服されるのか、審査過程を注視せねばならない。
以上、5月26日の衆院法務委での答弁について紹介した。国会や地方議会を「言論の府」と呼ぶことがあるが、今でもヘイトスピーチ問題に関する「国会での言論」は続いている。ヘイトスピーチ解消法成立10周年という「節目」を契機に活性化しつつもある。
10年前、与野党間の壁を越えた「調和的な合意」が果された結果としてヘイトスピーチ解消法が成立した経緯を噛み締めつつ、国会での「今の言論状況」を絶えず把握しながら、現実的な「次の一歩」を模索せねばならない。