掲載日 : [2019-04-24] 照会数 : 7168
『評伝 孫基禎』出版...歴史修正主義に抗う
[ 著者の寺島善一さん(中央)と賛助協力者の呉公太民団中央本部常任顧問、子息の正寅さん(右) ] [ 『評伝 孫基禎』の表紙 ]
日本人研究者 民団関係者ら支援
1936年ベルリン五輪マラソン競技に出場し、金メダルを獲得した故孫基禎翁の本格的な評伝「スポーツは国境を越えて心をつなぐ」が社会評論社から出版された。著者は孫基禎翁の母校でもある明治大学の寺島善一名誉教授(73)。出版不況のさなか、寺島名誉教授の著書が晴れて日の目を見たのは民団をはじめとする関係団体と明治大学を母校とする在日同胞ら個人の賛助があったからだった。
寺島名誉教授は「スポーツと平和」をテーマに36年間、孫基禎翁について研究を重ねてきた。この評伝はその集大成ともいうべきもの。20日、明治大学アカデミーコモンで開催された出版記念会では多くの賛助団体、個人の支援に感謝の言葉を述べた。
評伝の執筆を思い立ったのは事実を歪曲したり隠蔽したりする歴史修正主義への憤りがあったからだという。
「孫基禎は五輪に日本代表選手として出場することを余儀なくされた。表彰に至る過程と、ゴールドメダルに輝いたその後においても、さまざまな差別、迫害が加えられた。帝国主義日本の植民地支配における、人間としての尊厳を損なう数々の出来事が、どれほどの苦しみをもたらしたかは疑う余地はない。われわれは歴史の事実をしっかり直視し、そこに存在する問題を認識しなければならない」。
孫基禎翁はその苦難の体験にも関わらず、植民地からの解放・独立以降、日本人に怨念を持つこともなくスポーツを通した韓日交流に全力を注いできた。「孫基禎の生涯をたどることにより2020年東京五輪の理念を構築してゆきたい」と寺島名誉教授は強調した。
支援者を代表してあいさつした民団中央本部の呉公太常任顧問も明治大学が母校で出身地の長野県諏訪地方は植民地時代に孫基禎翁がマラソンの練習をしたゆかりの地。「私たちは孫先生の生き方から学び、再び不幸な歴史を繰り返さないという固い決意で韓日友好親善の未来を築いていきましょう」と呼びかけた。
孫基禎翁の子息、正寅さんは「感無量」と出版の実現を喜び、「2020年オリンピックの成功と韓日関係がよくなることを念願している」と語った。また、社会評論社の関係者は「特に安倍政権を支持する日本の若者に読んでもらい、日本の歴史を勉強してほしい」と呼びかけた。
1400円+税。問い合わせは社会評論社(電話03・3814・3861)。
(2019.04.24 民団新聞)