
東京・森美術館で開催中の「MAMリサーチ012:ディアスポラ・メモリー-境界を越えて生きるコリアン・アーティスト」の関連プログラムとして、 トークセッションが8月22日、同館で開催され、約70名が参加した=写真。
ディアスポラとは「原住地を離れた離散先で定着・永住するようになった人たち」を指す。同展は、日本へ渡ったクァク・インシク(郭仁植、1919年現在の韓国・大邱広域市生まれ、1988年東京にて没)、ドイツへ渡ったソン・ヒョンスク(宋賢淑、1952年韓国・全羅南道生まれ、ドイツ・ハンブルク在住)、韓国にルーツを持ち、カザフスタンに生まれたアレクサンダー・ウーガイ(1978年カザフスタン・クジルオルダ生まれ、アルマトイおよびソウル在住)という、韓国から異国へと渡った、または韓国にルーツを持つ3名のアーティストの作品と関連資料を通じて、20世紀から21世紀におけるコリアン・ディアスポラの軌跡をたどるもの。
セッションでは、郭仁植と長年親交のあったギャラリー Qオーナーの上田雄三さんが、「ガラスの作品はなぜ割れたのか」と題して、郭が60年代以降に発表した、(防火設備用のガラスとして建築物などに利用された)亀甲網入りガラス板を割ってヒビを入れた作品をスライドで紹介しながら、郭にとってガラスとは見えない壁であり、統一を阻む分断の壁をガラスに表現したのではないか」と分析し、郭が61年に発表した南北統一を願った「つぶやきの詩」を紹介した。
南城美術館館長・沖縄県立芸術大学客員教授の金惠信さんは、看護師としてドイツに渡った後現代美術家として活躍する宋賢淑について、「看護師時代の自らを描いた作品から、70年代の韓国女性労働者を描いた作品など、『押しつぶされた記憶』がにじみ出る作品を発信してきた」と評価した。森美術館アソシエイト・キュレーターの趙純恵さんは、アレクサンダー・ウーガイについて、「カザフスタンへ強制移住された祖父母の記憶を自らの作品としてきた。単一の祖国や故郷を持たず、複数の場所を横断した高麗人としての歴史が、彼の作品世界につながった」と報告し、「3名のアーティストの個人史と作品を通して、『コリアン・ディアスポラ』とは何かを読み解ければと考えて企画した」と語った。
最後に上田雄三さんは「芸術を通して見えない歴史を可視化する」ことの意義について述べ、金惠信さんは「個人の記憶と集団の記憶の可能性と限界を意識する」必要を強調した。
趙純恵さんは「国家や民族という単一の枠組みへの回帰が、世界各地で強まる現在だからこそ、コリアン・ディアスポラの存在は一つの重要な参照点となる」とまとめた。
会場には在日・韓国・日本の聴衆のほか、ロシア出身の人も訪れ、ディアスポラへの関心の高さをうかがわせた。同展は9月23日まで。https://www.mori.art.museum/jp/index.html