掲載日 : [2022-02-16] 照会数 : 3447
河正雄さん、コレクション1万2千点寄贈
[ 河正雄さん ] [ 「光州市立美術館分館 河正雄美術館」 ]
韓日美術の懸け橋30年…光州市皮切り13カ所
在日作家の作品中心に
【埼玉】在日2世の河正雄さん(82、埼玉県川口市)が自ら蒐集した在日同胞作家たちの作品を中心とする美術コレクションを韓国と日本の美術館や大学機関などに寄贈を続け、今年で30年を迎えた。これまでの寄贈は13カ所で1万2000点余りにのぼる。このほか、近く建設が予定されている地元の川口市立美術館にも「埼玉在住60年のあかし」として準備している。これが「最後の仕事」になりそうだという。
居住地埼玉でも準備
河さんは1992年11月、コレクションの1部、在日6作家の212点を開館してから間もない、収蔵品も少なかった光州市立美術館に寄贈することを決めた。
第1次伝達・調印式は93年に行われた。以降、7次にわたって寄贈した総点数は美術作品が2603点、美術図書類が1188点に及ぶ。
主要作家は河さんが訪れた画廊で心を揺さぶられ、自身最初のコレクションとなった在日1世の全和凰氏。同じく宋英玉、郭仁植の両氏。解放後の世代では郭徳俊氏や「もの派」としていまや世界的に知られるようになった李禹煥氏など。
コレクション活動は60年前から始まった。河さんには解りにくさゆえに一般社会からは敬遠され、経済的に恵まれず、困窮している在日同胞の現代美術画家を支援したいという気持ちがあった。だからこそ、ただ一人趣味でしまい込むのを良しとせず、美術館をはじめとする公の施設で広く一般に鑑賞してもらうことを前提に集めていった。
光州市立美術館の金姫娘学芸室長は「在日韓国人作家の作品を初めて韓国側に広く認識させた」と河さんの功績を称えている。
コレクションは当初、50坪の「記念室」に収蔵されていたが、18年からは200坪を誇る道知事の元官舎を使い、「光州市立美術館分館河正雄美術館」として独立した。現在、「河正雄コレクションハイライト」オンラインVR展示が開催中。4月からはさらに大がかりな企画展が始まる。
◆1世同胞へ鎮魂と祈り
河さんは秋田県田沢湖町育ち。秋田県立工業高校では美術部をつくり、高校生としては初めて県展に入賞した。しかし、家庭が貧乏だったため画家への道をあきらめた。一方、事業家として成功すると、「絵画という青春の夢」に少しでも近づこうと絵を集め始めた。
運命的出会いとなったのは東京・新宿のデパートで出会った全和凰の作品「弥勒菩薩」だった。作品からにじみ出るそこはかとない「祈り」から、差別と偏見にさらされ、虐げられてきた在日の葛藤、苦しみ、悩みを思い、その場で買い求めた。以来、人間社会の平和にたいする祈り、人の心の平安、安寧にたいする祈りをテーマとした作品を好んで蒐集する。
田沢湖周辺では第2次大戦中、水力発電所建設などのために韓半島や中国から徴用されてきた人たちが事故や病気、寒さ、栄養失調などで犠牲となっていた。当初、自らのコレクションを生かして犠牲となったすべての無縁仏をまつる「祈りの美術館」を建てることを思い描いていた。
田沢湖町側も乗り気だったが、「経済上の理由」でいつしか消極的になった。当時、日本の戦後処理がさかんにいわれるようになり、町としても問題になるのではと怖気づいたようだと河さんは想像している。
(2022.02.16 民団新聞)