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長野県松本市に在住する信州大学理学部の朴虎東教授。環境学者で、日本陸水学会の会長として学界で活動するかたわら、民団松本支部の議長として同胞社会の活動にも積極的に参加する。
陸水とは「海水の反対だ」と朴さんは言う。専門分野である陸水学は、海水ではなく内陸の地下水、河川、湖沼、河口などの水環境を対象とした物理・化学・生物学などの学問を指す。陸水学会はこのような分野の研究者の集まりだ。約100年前に設立され、現在は約800名の研究者が登録されている。日本では1970年代前後から水質汚染が深刻化し、その改善に陸水学会が大きく貢献してきた。
朴さんは日本でアオコ研究の第一人者として評価されている。アオコ毒素の発生や生態系・人間への影響を解析するだけでなく、アオコの増殖を抑制する低周波装置も開発し、画期的な技術として世界から注目されている。こうした研究能力と誠実さが評価されたのだろう。史上初めて外国人として陸水学会の会長に選出された。「学会内には優秀な人材が多く、選挙で選ばれるとは夢にも思わなかった」と言う。悩ましいのは、韓国人会長として日本のことを「わが国」と言えないし、「日本海」「竹島」などの呼び方に「気を遣う」と笑う。
朴さんの研究方法と成果は、韓国や中国、さらには米国やカナダなどでも高く評価され、活用されている。その結果、多くの留学生や研究者が学びに来て、留学後は母国に戻り活躍している。特に中国や韓国では「私がこの分野のパイオニアとして紹介される。祖国から認められることが何より嬉しい」と言う。2年後に定年を迎えるが、退職後は韓国はもちろん、中国やイスラエル、モンゴル、カンボジアなど国際社会の水環境改善に貢献したいと考えている。
江原道・江陵出身の朴さんにとって大きな転機は、春川の江原大学在学中にあった。昭陽ダムの水質に関する韓日共同研究に参加したことが契機となった。当時、日本側の研究者である信州大学の教授から勧められ日本留学を決意した。その後文部省(現文科省)の奨学金を得て信州大学に進学し、研究者の道へと進んだ。大学院の修士課程では生物学を専攻したが、湖沼のアオコ毒素が人体に与える影響をより深堀りするため、医学部の博士課程に進学し、環境医学分野の研究を続けた。
博士号取得後、助教を経て36歳で准教授に就任。その後、研究環境が落ちつき、日本が韓国と地理的に近いこともあって、日本永住を決意し、63歳の現在まで信州大学で研究と教育に携わることとなった。
一方で、朴さんは民団の役員というもう一つの顔を持っている。現在は長野県松本支部の議長として支部運営に携わる傍ら、行事などの時は机やイスを並べたり片付けたりもする。
民団との関係は30余年前の留学生時代から始まった。自分の子どもたちも韓国語教育を受けることで、民団の行事に参加する機会が増えた。民団活動に積極的な理由について、「留学などで来た新定住者と在日2・3世の方々が親しくなる手助けをしたかった」と語る。
個人的にも民団は特別な意味を持つ。妻は愛郷心と同胞社会への愛着が強く、それ故、民団での活動は「家庭の和睦に繋がる」と笑う。また、普段は日本の学者と専門的な研究の話をする時間が多いが、民団では多様な世代の人々と共有できる話を気軽に分かち合えるので「リフレッシュでき、ありがたい存在」だ。次世代の同胞には「韓国人であることに誇りをもってほしい」と言う。そして、民団が「韓国系日本人も気軽に来られる幅広い受け皿になること」を願う。
世界的なアオコ研究の第一人者で日本陸水学会の会長という学術活動、そして民団支部の議長という在日社会活動。朴さんの人生を支え、豊かにしてきた二本の柱はこれからも健在だろう。