2025年は、祖国光復80周年と韓日国交正常化60周年を迎える意義深き年である。
80年前の1945年、日帝敗戦により祖国は光復を迎え、在日同胞は太極旗を高らかに掲げ歓喜した。一方で祖国は解放されたが、北はソ連、南は米国の軍政下に置かれ、現大韓民国政府が樹立されたのは解放から3年後の1948年である。 当時の日本国内は、空襲などにより焼野原が広がり人々の生活は困窮を極めた。そうした混乱した状況にあっても、在日同胞は自らの力で自由民主主義の高き理念を掲げて自治団体としての民団を創団した。
現在の混沌とした内外情勢にあって、私たちは今一度、本団の原点でもある創団精神に立ち還り困難な状況を克服してまいりたい。
祖国光復80周年
祖国解放翌年の1946年8月15日、民団の前身団体である「建同(新朝鮮建設同盟)」と「建青(在日朝鮮建国促進青年同盟)」は、東京の日比谷公会堂において祖国開放1周年記念式を盛大に挙行した。同年10月3日には、同じく日比谷公会堂で、「建同」と「建青」をはじめとする20余りの団体が結集し民団が創団された。以来民団は、祖国光復を慶祝する式典を最重要行事とし毎年開催してきた。
今年、光復80周年を迎え、祖国と在日同胞の歴史を改めて認識し祖国光復の意義を深める年としたい。
韓日国交正常化60周年
在日同胞は、暗黒の日帝植民地時代に艱難辛苦の迫害、差別を受けた被害当事者であると同時に、自由と平和を求めていた。
民団の創団(第一次)宣言書には、「国際親善を期する」と掲げられ、さらに「相互理解と親善を保全し、一丸となって共存共栄と東洋の平和を期そう」と記した。その「国際親善」とは、即ち「韓日親善」を意味する。 民団は、創団より一貫して平和と韓日親善を綱領として掲げ活動を行ってきた。そして1965年6月に韓国と日本は基本条約に調印し、韓日国交が正常化された。
この間、韓日関係は、政治的な問題により厳しい状況に陥ることもあったが、在日同胞は、そうした事態にも揺らぐことなく粛々と韓日親善活動を進めてきた。
2025年は、韓日国交正常化60周年を迎える。本団は、韓国と日本の平和と安寧のため国交正常化60周年を期して韓日の友好親善の諸活動を推進する。
激動する本国情勢
2024年12月3日夜、尹錫悦大統領は非常戒厳を宣布した。これに対し韓国国会は戒厳令解除を求める決議を採択し、翌早朝に大統領は戒厳令を解除した。
この事態に12月14日、野党が過半数を占める国会は、尹大統領の弾劾訴追案を可決し、大統領の権限は停止した。さらに国会は大統領権限代行となった韓悳洙国務総理に対しても12月27日、弾劾訴追案を可決。今後、尹大統領の弾劾については、憲法裁判所で審議される。
本団は、創団宣言書の基本要領に「本団は、自体が決して一種の思想や政治団体ではなく、また本国あるいは海外のいかなる思想や政治の主流にも偏倒することなく、その中の一つを支持したり、或いはこれに加担しない」と明記している。
この背景には1945年に結成された在日朝鮮人連盟が、一夜にして共産主義一派に暴力的に独占支配され、それに抗い自由と民主主義を求める在日同胞が結集し、民団を創団するに至ったという経緯がある。
今、本国情勢は、混迷の度を深め深刻な状況であり、本団は不偏不党の基本原則を堅持しつつも深い憂慮の念を抱かざるを得ない。
大韓民国の平和と安定を願う私たち在日同胞は、今回のこの事態に胸を痛めつつも必ずや法治国家として法に則り肅々と事態が収拾されることを信じてやまない。
また2000年代に入り、日本国内での悪辣なヘイトスピーチの拡大とともに、地方参政権獲得運動に対しても攻撃と圧力が強まった。本団は、ヘイトスピーチ根絶のために活動を展開し2016年に規制法が成立施行され、その後、街頭でのヘイトスピーチは大幅に減少した。しかしインターネットなどでのヘイトスピーチは根絶されたわけではなく継続してヘイトスピーチ根絶の活動を進めていく。
「生活相談センター」の充実化
民団は団員のための諸活動を展開してきた。法律を含む各種の在日同胞のための相談窓口としての「みんだん生活相談センター」は、現在、中央を含め全国に21か所の相談センターが、専門家を置いて同胞の拠り所として機能している。2025年も相談の充実化と拡張を進めていく。
戦後補償・犠牲同胞慰霊
一昨年2023年の関東大震災韓国人虐殺事件100年は、内外から大きな注目を浴びた。また植民地時代に徴用等で犠牲となられた韓国人の慰霊行事は、広島・長崎・沖縄をはじめ全国各所で行われている。また関連する慰霊碑や史跡なども全国に数多く存在する。各種の慰霊・追悼行事を行っていくとともに、各地域に点在している歴史・史跡を探求していくとともに各種セミナー等も実施していく。
次世代の育成 2025在日同胞オリニジャンボリー
民団の未来を担う次世代育成は、重要な活動であり最も優先すべき課題だ。
「オリニジャンボリー」は、コロナ等の事由により久しく実施されず、再開を求める声が寄せられていたため、昨年2024年は6年ぶりに開催した。
また同事業はこれまで隔年で開催してきたが、多くの継続開催を求める声が寄せられたため、2025年度においても7月下旬に「2025オリニジャンボリー」を、昨年に引き続きソウルで開催する。
在外同胞庁主催の高校生・大学生の母国訪問
在外同胞庁が主催する高校生・大学生などを対象とした母国訪問事業に積極的に参与する。同事業は、世界各国の在外同胞の子女を対象とし、大規模に開かれるものだ。一方でこれまでも実施してきた学生会が主管とするレイジングスターセミナーも実施し、青年会、学生会を支援することなど次世代育成を着実に進める。
また在外同胞庁の事業及びオリニジャンボリーの対象に含まれない在日同胞の中学生を対象とした事業も別途、実施する方向で検討を進めている。
さらには本国留学・修学制度や各種奨学金制度、在外同胞協力センターの各種教育プログラムの広報も積極的に進める。
韓日友好促進 韓日国交正常化60周年
韓日親善は、本団創団以来の重要活動だ。本団は、「世界平和と国際親善を期する」との綱領に沿って草の根の市民による親善交流はもとより多方面での韓日親善を進めてきた。韓日関係は、その時々の政治的な状況によって揺れ動くことも多々あったことは否めない事実だ。一方で韓日両国の関係各所から韓日友好親善の民間交流の深化を促されているが、中央レベルだけで進められるものでもなく、特定の人士だけでも成し遂げられるものでもない。
全国の地方本部、支部、傘下団体には、これまで培ってきた実績とネットワークがある。各地の地方自治体、日韓親善協会、日韓議連、各種市民団体等々と民団の各級組織は、共に平和と地域発展のため地道な友好親善活動を継続して行ってきた。それは民団の誇るべきものといっても過言ではない。2025年度もそうした草の根の民間親善交流に尽力していく。 一方で今年、韓日国交正常化60周年を迎えるに際し、各種事業およびフォーラムなどを積極的に実施する。
また5月13日の大阪万博「韓国ナショナルデー」に対しても積極的に参与し、前日12日の大阪での記念行事にも参与していく。
組織基盤強化 在日同胞大統合の推進
在日同胞社会は、1世から2世3世へと世代交代が進み、また新定住者同胞、日本籍同胞が大幅に増加するなど在日同胞社会の構成が大きく変貌した。また在日同胞といってもその国籍、環境、立場、出身、価値観の多様化が進んでいる。
本団は、これまでも同胞統合の諸活動を進めてきたが、同胞社会の急激な変化に対応しきれていなかった側面もある。また日本社会がそうであるように、在日同胞社会も少子高齢化、地方の過疎化などの問題は、切実なものとなっている。
民団は、在日同胞社会の中心核として、多様な同胞が集い合う組織とならなければならない。そのためにも各地域の3世4世、新定住者、日本国籍・重国籍などの韓半島をルーツにする同胞も参与できる各種の事業、行事を企画・実施し、各韓人団体との交流と共同事業を推進していく。
同胞家庭訪問、名簿拡充運動
本団は、在日同胞によって自主的に創団された団体である。団員がいてこその組織であり、組織のために団員がいるのではない。その意味において本団の組織的基盤は、団員が所属し集い合う支部、地方本部である。
多様化した同胞社会であるからこそ一人ひとりの同胞と絆を結びゆくことが大切だ。そのためにも各地域における同胞への訪問活動を着実に推進していく。
また阪神・淡路大震災、東日本大震災、能登半島地震などで各地域の同胞の所在確認や情報伝達に際し、名簿拡充の必要性が切実なものとなった。
近年、首都直下地震、南海トラフ地震の危険性が高まっていると指摘されている。そのため各団員家庭の家族、親族および地域の同胞の携帯電話を含む名簿の拡充を進めていかなくてはならない。
各種研修・セミナーの実施
在日同胞社会の世代交代と多様化などにより、同胞社会の歴史と組織運営に欠かせない本団規約・規定などの基本的な認識が希薄化している。
今年は光復80周年、韓日国交正常化60周年を迎える節目の年である。在日同胞の歴史と本団規約・規定、韓日友好親善などをテーマに、各種の研修、セミナーを実施していく。また光復80周年となる今年、本国の状況を注視しつつ母国訪問事業の実施を図っていく。
光復節・三一節等の記念行事
今年は、光復80周年の年となる。光復節行事は、本団の最重要行事であり、80周年を迎えるに相応しい光復節記念行事を行う。また三一節記念行事もまた、わが民族の矜持を示すものであり、その歴史と意義を確認し合いたい。
民族総有財産の保全
中央会館をはじめ各級組織の会館、事務所施設は全国に存在する。こうした民族総有財産の保全活動を推進する。また昨年、駐日韓国大使館と民団は、領事協力団体委嘱約定書の更新をしたように、全国各所の民団関連施設は、適切に保全されるよう方策を検討していく。
同胞の生活と権益の守護
「同胞の民生安定と人権擁護」は、本団の重要な活動であり、その内容は多岐にわたり、また時代に応じて変化していく。さらに日本全国に各級組織を擁した本団には、内外から様々な期待と要望が寄せられてきたことも事実だ。
昨年、日本の国会は「永住者」の在留資格を有する外国人について、税金や社会保険料等を滞納した場合や、1年以下の懲役・禁錮刑を受けた場合に在留資格の取消しを可能にする法案を可決成立させ、2027年までに同改定法を施行する予定だ。
今後、運用ガイドラインを策定するにあたって同胞に不利益とならないように関係各所に働きかけを進めていく。
地方参政権の獲得とヘイトスピーチ根絶
本団は、1994年の第44回定期中央大会で名称を「在日本大韓民国居留民団」から「居留」の二文字を削除するとともに、日本定住を鮮明に打ち出し、地方参政権獲得を運動の柱に掲げ進めてきた。一方で日本の永住外国人の構成は、1995年では特別永住者約56万人、一般永住者約6万人だったものが、2024年には特別永住者約28万人、一般永住者約90万人と大幅に変貌し、中国籍者が最も多くなっている。こうした現状とこれまでの運動の総括を通じて地方参政権運動の在り方を模索していく。
明年2026年は、本団創団80周年を迎える。1946年の創団当時と現在では、在日同胞社会は世代交代と多様化が進み、かつて最貧国だった祖国大韓民国は、今では先進国の仲間入りを果たし、1人当たりの名目のGDPがドル換算では日本を上回るようになった。
隔世の感がある時代の変化とともに、当然、本団も時代に即応していかなくてはならない。そして本団を創団するに至った精神、理念、そして百年を超える在日同胞の苦難の歴史を堅持し、未来に継承していかなくてはならない。
現在、中央本部をはじめ各級組織において、財政、人材・次世代等々の問題に対応に苦慮している。中には存続が危ぶまれる地方組織もあるのが実情だ。中央本部においても職員数は以前から半減した。業務が減少していたコロナパンデミックと諸問題があった時期では問題はなかったが、正常化を果たした現在では業務に支障があると危惧される。
昨年、執行部では在日同胞の生活権を確立させてきた歴史の再認識と、同胞社会の多様化を明確にしつつ民団に対する正当な認識と今後の同胞社会に対する果たすべき役割と在り方を考究するため「民団ビジョンプロジェクト(MVP)」チームを設置し、未来に向けて在日同胞社会が発展するための調査研究を進めている。
時代の変化に対応していかなくてはならないことは当然だとしても、在日同胞社会と組織の現状の実態把握なくしての対応は、掛け声だけのものになる危険性がある。そして何よりも民団の精神、理念を失ってはならない。
第56期執行部は、全国各級組織の幹部、団員と共に悩み、考え、そして本団の原点、歴史を踏まえつつ未来に歩んでいく。そのうえで一つひとつの諸課題を着実に具体的に取り組んでいく。
日帝植民地時代からの百年を超える在日同胞の苦難の歴史。祖国解放とともに自由民主主義を掲げて民団を創団した先輩の方々の尊い精神と理念。創団80周年を翌年に控える今、後継の私たちは改めて本団の使命と役割を確認し合いたい。